ミリンが秘めた 食材としての魅力
「面白いより 面白くできる海藻」
ナビゲーター:石坂秀威
石坂秀威(いしざか しゅうい)
シドニー出身。数々の有名料理店で料理人としての経験を積み、世界各国から集結した仲間と共にレストラン「INUA」の立ち上げのために来日。リサーチトリップを頻繁に行い、出会った食材を使用して醤油などの発酵調味料も自ら作るなど、スーシェフとして料理開発を担当した。INUA時代から多くの海藻を使用し、新しい切り口の料理を数多く手掛けた。現在はシーベジタブルの料理開発担当として、テストキッチンで海藻の可能性を探求している。

ヒジキを初めて食べたのは、シーベジタブルの皆と一緒に海を潜ったとき。何と言うか、この食感は“食べるべきもの”だなと思った。ヒジキそのものを食べるというか。
陸の葉野菜みたいにしっかりした食感で、食べ応えがいい。これこそ、まさに海の野菜じゃないかって。
繊細な香りのスジアオノリと全然違って、ヒジキは調味料としてのポテンシャルは見えてこなかった。だけど、香りも食感もすごく強い。茹でたり火を通したりするような強めの調理法でも、味と食感が残ってくれる。
ヒジキは、ワカメやコンブみたいに、海藻の中でも味が濃いほうだと思う。例えるなら、パイプの中に味がぎっしり詰まっているような状態。
そこへいきなり他の味を入れることは難しくて、塩蔵しても余計に凝縮して味が強くなり過ぎてしまう。だから一度茹でる。
でも、茹で時間が長いと、ヒジキのシャキシャキした食感が無くなってしまうから、ほんの軽く茹でて、ヒジキの味を少し薄くする。それから塩蔵で味を凝縮させたあと、味が薄くなって生まれた隙に他の味を入れてあげる。
すると、いろんな味付けヒジキができる。


柚子ヒジキを最初に考えたのは、柚子って日本人にとって懐かしい香りで、親しみやすい香りだから。「そもそもヒジキって生みたいに食べられるの?」という声に、分かりやすく応えられると思って。
柚子ヒジキは、とにかくそのままでも食べやすいことが強み。料理に使うときも、最初に玉ねぎと一緒に炒めなきゃいけない、なんてことは一切なく、最後に料理へ混ぜるだけで、美味しく食べられる。
料理に入れるなら、無理にヒジキと合わせようとしなくても、皆が知っている柚子が何と合うのかを考えれば、分かりやすいと思う。
例えば、うどんや蕎麦のトッピング。よく付け合わせで菜っ葉が添えてあったり、薬味に柚子の皮が入っていたりするけど、その二つの役割を柚子ヒジキだけで担える。食べるトッピングでもあるし、香りづけとしての働きもある。
そう思うと、カレーに福神漬けのように入れてもいいだろうし、キノコのお吸い物ならワカメの代わりに柚子ヒジキを入れてあげると面白いかも。
それと、パスタの具材。下味が完成されている状態のパスタへ、刻んだ柚子ヒジキを最後に入れてあげると、面白い食感だし、魚介系のパスタなら海の香りと柚子のさわやかな香りがパスタの熱で一緒に感じやすくなる。


あとは、皆が大好きな柚子胡椒。あの美味しさの元って、柚子の香りと辛さ。つまり柚子と辛いものは美味しく一緒に食べられるから、柚子ヒジキを辛い料理に使ってあげると面白いと思う。
ヒジキを主役にしたサラダに、ラー油をベースにしたドレッシングをかけるとか。ゴマの香りもプラスされて、辛さとすごく合うと思う。
試したことは無いけど、麻婆豆腐のトッピングとして柚子ヒジキがあればきっと美味しい。冷や奴に辛いオイル、そこへ醤油と柚子ヒジキも良いかもしれない。
最後に、歯応えを楽しむ料理が個人的に好きで。
ヒジキは良い食感がするから、食感を楽しむような一品を作るのも面白い。この前は試食会で、柚子ヒジキをキクラゲと合わせてサラダっぽく出した。どっちもコリコリとした食感。
生春巻きに入れて、あの食感を柚子ヒジキでパワーアップさせるのも美味しいと思う。反対に、柔らかい具材の中にアクセントとして入れるのも面白い。

ミリンを家で使うなら、鍋料理にシラタキの代わりに入れると面白い。一緒にずくずく煮るのではなくて、出来上がるところに入れて楽に作れる。
それと、おろし大根とミリンを半々くらいで一緒にして、ポン酢やお出汁をかけてあげると、かなり美味しいと思う。大根の辛味と味をミリンが吸いつつ、食感を与えてくれる。
あとは、とろろご飯。とろろにミリンを半々の割合で合わせると、トロっとジュルっとした食感が美味しい。
醤油漬けにしたミリンにワサビを乗せてご飯を食べるのも美味しいかも。そこにスジアオノリもかけてね。
すごくマニアックだけど、最近は海藻を海藻で味付けすることがあって。
海藻はどれも万能ではなく、長所があれば少し足りないところもあるから、海藻だけで助け合うっていう使い方も面白いんだ。