Dessert Day at SEAVEGE- Kitchen Lab |「海藻×スイーツ」が切り拓く、食の新しい可能性
2026年8月に東京・八重洲のSEAVEGE- Kitchen Labで、海藻とスイーツの新しい組み合わせを楽しむ「Dessert Day」が初開催されました。
海藻といえば、和食や出汁のイメージが強いかもしれません。そんな海藻が、スイーツの世界でどんな味や食感を見せてくれるのか。海藻の個性を引き出す開発力と、食材としての機能性、さらにさまざまなつくり手との共創によって、その可能性は広がり続けています。
3種のデザートを味わいながら、SEAVEGE- Kitchen Labが続ける“おいしい実験”をのぞいてみました。
(取材・執筆・撮影:山本梓)
海藻が、スイーツに。——初開催の「Dessert Day」へ
テーブルにあしらわれているのは、大きな長い海藻。
テーブルクロスのようなこれは、昆布? いや、もう少し薄い。触ってみると、やわらかい。これは一体……?
「これは、『チガイソ』という海藻です。昆布やわかめだけでない海藻を、みなさんに知っていただけたらと思って」
キッチンに立つ塚本みなみさんが教えてくれた。

たしかに、はじめて聞く名前の海藻だ。
塚本さんによれば、この「チガイソ」や、後ほどデザートに登場する「フイリグサ」などは、一般の方は購入できない希少性の高い海藻だそう。市場に流通していない未利用の素材を、新しい食べ方とともに実験的に味わえるのは、ここ「SEAVEGE- Kitchen Lab」ならではの特別な体験だ。
その「チガイソ」が、今回の「Dessert Day at SEAVEGE- Kitchen Lab」で活躍するという。
3日間限定の特別なデザートイベントとして初開催された「Dessert Day」。3種類の海藻スイーツと、それぞれにペアリングしたドリンクが提供される。
このイベントは、東京・八重洲で海藻を使った料理や商品の研究・開発をしてきた「SEAVEGE- Kitchen Lab」(シーベジキッチンラボ)が主催している。これまでコース料理を通じて、海藻の新しい食べ方や可能性に触れてもらう機会や、企業とのコラボレーションに向けた試食会を行ってきた。今回は、より気軽に海藻の魅力を伝えたいと「海藻×スイーツ」を主軸にしたイベントを企画した。
陽光が差し込む「SEAVEGE- Kitchen Lab」には、国籍や年齢を問わないさまざまな客層の方がやってくるのが印象的だった。SNSの告知を見て予約したという方も少なくないという。
海藻とスイーツ。まったく想像がつかないが、きっと新しい体験になるはずだ。
3種類の海藻スイーツ、順を追って見ていこう。
海藻の香り、食感、色を楽しむ。3つのデザート
◉海藻あんみつ
向かいの席には、若い女性たちの姿も。あんみつの写真を熱心に撮っていた。たしかに撮りたくなる一皿。この器も、イメージに合わせて陶芸家の田中信彦さんに作陶してもらったものだという。
「あつばアオサ」は粉末にして練り込んだ白玉に、「すじ青のり」を原藻のまま寒天に混ぜ込んだものを合わせている。さらに「みりん」(皿上部)と「トサカノリ」(皿下部)という2つの赤い海藻には、高い吸水性を活かしてトマトウォーターの風味をまとわせている。
海藻を使った白玉や寒天から、それぞれの香りが感じられる。自家製あんこと、梅酒に漬けた梅でつくった特製の梅ジャムを合わせると、甘さのなかに梅の酸味が加わる。ほどよく立てた生クリームも添えられており、白玉や寒天、あんこ、梅ジャムとともに味わえる。
あつばアオサの白玉、すじ青のりの寒天、みりん、トサカノリと、海藻によって異なる食感が一皿のなかに組み込まれているのも特徴だ。
あんみつの要となる蜜には、黒蜜ではなく、食材としてはあまり知られてこなかった海藻「チガイソ」の旨味を抽出してつくった自社開発の「海藻シロップ」を使用。甘さを抑えた自家製あんこや塩えんどう豆、生クリームと合わさることで、精製糖にはない奥行きのあるコクが生まれている。
仕上げには、すじ青のりのキャンディを削ってトッピング。ひとつのスイーツのなかに、さまざまな海藻が異なるカタチで使われている。

写真右上は、ペアリングの「クロモジ茶」。清涼感のある香りとすっきりとした味わいが、海藻の持つ風味をいっそう引き立て、あんみつの世界観をより豊かに広げてくれる。
◉デザートプレート(季節のフルーツ)

光の入った海の中をイメージしたような一皿。色合いもにぎやか。盛り付けにも工夫と遊び心が感じられる。
一番下に敷かれているのは、プラムで味付けした「トサカノリ」のシート。特徴的なカタチは「デザートプレート」全体を演出している。その上にアーモンドムースと桃が重なり、透明なバジルシロップがかかっている。バジルといえば緑色を連想するが、今回緑色をしているのは「アオサ」のオイル。一皿の配色にも、こだわりが感じられる。同じ「アオサ」は、香ばしいフィユティーヌ(薄焼きクッキー)にも合わせられている。
ピンク色のグラニテは「フイリグサ」という海藻から。皿に3点添えられているのは、酸味のあるクリーム。巻貝のように丸まっているのは、梅のシロップに漬けた桃だ。
いくつかの材料を一緒にすくってひと口。ひんやりとした「フイリグサ」のグラニテに、アーモンドムースのなめらかな口当たり。梅のシロップに漬けた桃とクリームの酸味、プラム味の「トサカノリ」シートのやわらかな食感が加わる。「アオサ」のオイルからはほのかな香りが感じられるし、バジルの香りも効いている。フィユティーヌを合わせるとカリッとした食感も。
組み合わせるものによって、味や食感の印象が変わる一皿だった。
塚本さんによると、そのまま食べても完成されているフレッシュな桃の香りを邪魔しないよう、バジルシロップで香りづけした桃の裏に、プラムに漬け込んで食感を変化させた「トサカノリ」を忍ばせているという。鮮やかな「フイリグサ」は、梅とハイビスカスのシロップと合わせて、夏らしいグラニテに仕立てた。

「チガイソ」という海藻を発酵させ、金川紅茶“KANIGAWA”と合わせたペアリングドリンク。香り高く、舌にキュッと残る和紅茶のほどよい渋みが桃のデザートの輪郭を整え、あっさりとした酸味とほのかな甘みがさわやかな調和を生んでいる。
◉すじ青のりパウンドケーキ&アイス

デザートメニューの中で唯一、オンラインや、八重洲にあるシーベジスタンドで購入できる「すじ青のりのパウンドケーキ」。イベントでは、特別に“焼き立て”を提供しているが、オンラインやシーベジスタンドでも変わらぬ美味しさを楽しめるよう、冷凍保管しても変わらない、しっとりとした食感を追及した。
最後に登場したのは、「すじ青のり」を使ったパウンドケーキ。生地に、すじ青のり原藻をあえて大きな状態で混ぜ合わせることにより、奥行きのある風味に仕上がっている。しっとりとした生地には、乾燥すじ青のりに加え、あつばアオサの香りと旨みを油脂に移した「アオサオイル」も使われているという。
海藻の香気成分を油脂に転移させる製法により、焼き上げても香りが飛ばず、冷凍・解凍を経てもしっとりとした質感を保てるという。今回の「Dessert Day」では、焼き立てが提供されたが、この高い品質保持技術により、流通商品や製菓原料としての応用可能性も見せている。
口にすると、まずバターのまろやかなコクが広がり、そのあとから、すじ青のりの香りがふわりと立ち上がる。抹茶が入っていると間違われることが多いというが、抹茶は一切入っていない。濃厚なコクが持ち味のパウンドケーキでありながら、海藻の香りもしっかりと感じられるのが印象的だ。
シーベジタブルが手掛ける「すじ青のり」は、海藻界の“香りの王様”とも称される逸品。繊細でさわやかな海の香りは、バターのコクとも相性がよく、あとにはすっきりとした余韻が残る。
添えられているのは、SEAVEGE- Kitchen Lab特製のすじ青のりアイスクリーム。ほろ苦さが、まるで抹茶のようなニュアンスを添える。パウンドケーキと合わせると、ひんやりとした口当たりが加わり、また違った味わいになる。
「海藻をスイーツにする」と聞いたときに想像する味とは、少し違う。けれど、ひと口食べてみると、すじ青のりの香りがしっかりと残る。海藻が「隠し味」ではなく、ひとつの素材として使われていることが感じられる一品だ。

生のすじ青のりから抽出したウォーターと知覧茶を合わせたペアリングドリンク。知覧茶が持つ若々しい香りと旨みに、発酵させた青のりのフルーティーな香りがすっきりと重なり合う。すじ青のりをふんだんに使った、パウンドケーキ&アイスクリームの濃厚な味わいに優しく寄り添い、後味を軽やかに整えてくれる。
まだ知らない「おいしい」をつくる、SEAVEGE- Kitchen Lab
すべてのデザートを味わい終えたところで、SEAVEGE- Kitchen Lab 料理・商品開発リーダーの塚本みなみさんに改めて、お話を聞いた。
テーブルのあしらいにも、スイーツにもドリンクにも登場した「チガイソ」について、教えてもらった。
「チガイソとの出合いは、北海道・根室市からシーベジタブルに相談をいただいたことがきっかけです」
昆布の生産が盛んな根室市では、昆布の生産量が減る一方で、雑海藻であるチガイソが増えることがあるという。出荷できないチガイソは肥料として活用する試みも行われていたが、量が多く、最終的には産業廃棄物となってしまうものもあった。
「この“海のやっかいもの”を、もっとポジティブに活用できないか。そんなお問い合わせだったんです」
根室から送られてきたチガイソを実際に口にしてみて、発見があったと言う。
「個人的には、わかめと昆布のいいとこどりだなと思いました。昆布ほど分厚くないですし、香りもワカメよりは濃い。お出汁を取ろうと思ったら、昆布よりは薄いんですけど、ワカメよりはちゃんと出る。加工がしやすいなと。最近の私のお気に入りの海藻です」
と微笑む。
これまで食材として注目されてこなかった海藻も、見方を変えれば、新しい味や食感を持つ素材になる。
チガイソは、そのひとつだ。
そして、「まだ知られていない海藻を、どうしたらおいしく食べてもらえるだろう?」と考えることは、SEAVEGE- Kitchen Labが日々取り組んでいることでもある。
八重洲のSEAVEGE- Kitchen Labを拠点に、キッチンチームが海藻の新たな味や活用法を探求し、検証を重ねている。企業とのコラボレーションや商品開発の裏側には、こうした地道な試作の積み重ねがある。今回の「Dessert Day」もまた、そうした探求から生まれたひとつの実践の場だ。
次回は、10月に開催予定だという。今度はどんな海藻の、どんな一面に出会えるのだろう——その“実験”の続きに注目したい。
SEAVEGE- Kitchen Labでは、今回の「Dessert Day」のように、海藻の新しい可能性を試作・検証し続けています。
「新しい食材を探しているシェフ・パティシエの方」「海藻を使った商品開発や原料活用を検討したい事業者の方」との共創・コラボレーションを随時受け付けています。八重洲のラボでのご試食やご相談も可能ですので、ぜひ以下のお問い合わせフォームより、お気軽にご連絡をお待ちしております。
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