海藻の可能性を、空間で実験する。八重洲拠点の内装と照明が生まれるまで

2026年3月、東京・八重洲に誕生する「シーベジスタンド」と「SEAVEGE- Kitchen Lab」は、料理だけでなく空間そのものが海藻の可能性を探る実験の場でもあります。

内装設計・施工を手がけたのは、鈴木一史(埴生の宿)、福田和貴子(studio vandrer)。体験設計・照明開発を担ったのは、secca(上町達也・柳井友一・山森萌子)です。彼らが挑んだのは、「海藻をモチーフにする」ことではありません。海藻そのものと向き合い、素材として、空間として、どう扱えるのか? その問いから、この場所は生まれました。

着地点が見えないから、やってみた

鈴木一史さん(以下、鈴木) 最初に話を聞いたとき、正直、着地点が全く見えなかったんですよね。

鈴木さんは、ベトナム・ホーチミンのPizza 4P’sをはじめ、ONIBUS COFFEE 中目黒駅前店など、国内外の数々の人気店を、設計から施工まで一貫して手がけてきました。完成形がある程度想像できる案件も多い中で、今回のシーベジスタンドは少し違っていたといいます。

「海藻をテーマにした店」という輪郭はあるものの、どのような空間になるのかは、誰にも分かっていませんでした。だからこそ、面白いと感じたと振り返ります。


鈴木 素材から一緒に考えられる余地がある。それなら、自分のやってきたことが活きるかもしれない、と思いました。

海藻を「模様」にするのではなく、「素材」として扱う

八重洲拠点1階のシーベジスタンドの内装で、まず目を引くのが、壁一面に広がる「海藻タイル」です。近づくと、そこに海藻の痕跡が刻まれていることに気づきます。このタイルは、海藻をモチーフに描いたものではありません。実際の海藻を使って焼き上げています。

着想の源は、愛知県常滑市に伝わる「藻掛け(もがけ)」という技法でした。これは、素地(釉薬をかける前の土)に海藻を巻き付けて焼成することで、模様を表す技法です。

焼成の過程で、海藻に触れていた部分は釉薬がかからず、その部分だけが緋色に発色します。海藻そのものが燃え尽きたあとに、痕跡だけが残る。常滑焼ならではの、非常に特徴的な表現です。

鈴木 急須もタイルも、同じ土です。それなら、この技法をタイルにも応用できるのではないか、と考えました。ただ、最初はうまくいかなくて。海藻に含まれる塩分が土に作用し、タイルが膨らんでしまったんです。試行錯誤の末に辿り着いたのが、海藻でマスキングするという方法でした。釉薬をかける前に海藻を置き、その部分だけ釉薬が乗らないようにします。すると、焼き上がったときに、海藻の輪郭だけが残ったんです。

昆布、とさかのり、すじ青のり、アツバあおさ、みりん。いくつもの海藻を試しながら、素材としての特性を見極めていきました。

鈴木 やってみないと分からないことばかりでした。とさかのりは、驚くほど模様がはっきり出ます。一方で、すじ青のりやあつばアオサは、転写すると違いが分かりにくくなりました。

1階と2階、同じ手法でも違う空気をつくる

八重洲拠点は、1階「シーベジスタンド」と、2階「SEAVEGE- Kitchen Lab」で空気感が大きく異なります。

1階は、赤土のタイルを使用しています。鉄分を多く含むため、自然釉で焼くと溶融変化が起きやすく、表情が豊かです。

2階は、白土をベースにしています。鉄分が少なく、落ち着いた仕上がりになります。さらに2階では、約430枚のタイルを壁一面に一枚の絵のように並べて焼成しています。番号を振り、焼いた順番通りに貼ることで、表情が暴れすぎないようにコントロールしました。

鈴木 同じ工程でも、素材や扱い方によって、空間の性格は変えられます。

賑やかな1階。よりプライベートな2階。海藻という同じ素材を使いながら、異なる体験を生み出しています。

さらに今回のタイルは、釉薬にも海藻を用いた自然釉を使用しています。海藻を焼いて灰にし、その灰を原料としてつくった釉薬です。人工的な顔料ではなく、自然由来の素材だけを用い、最終的な表情は「火」に委ねられます。

鈴木 すべてが思い通りになるわけではありません。温度や土の状態、焼成のわずかな差で、色や溶け方が変わります。それでも、あえて自然由来の素材だけを使うこと。人の手と火の力で、海藻の痕跡を立ち上げること。その積み重ねが、この空間のタイルを形づくっています。

すじ青のりを壁に混ぜ込む

シーベジスタンドでは、海藻を模様や装飾として扱うだけでなく、建築そのものの素材として使う試みも行っています。そのひとつが、1階の一部壁面に使われている、すじ青のりを混ぜ込んだ漆喰壁です。

鈴木 すじ青のりを漆喰に混ぜると、施工直後は白い壁の中に、わずかに青のりの粒子が見える状態になります。ところが数日経つと、漆喰の水分と反応し、壁全体がうっすらと青緑色に変化しました。初めは、失敗したかなと、ちょっと焦りました。

しかし、その後、漆喰が完全に乾燥すると、壁の色は再び白に戻りました。青緑色だった発色は消え、よく見ると、壁の中にすじ青のりが含まれていることがわかります。

海藻を「見せる」ための照明

照明の設計を担ったseccaも、「海藻を、どうすれば展示物ではなく、食事の体験と地続きの存在として感じてもらえるのか」という、同じ問いに向き合いました。

山森萌子さん(以下、山森) 海藻は、実はちゃんと見たことがない人がほとんどです。博物館のように展示するのではなく、食事をしている空間の中で、自然に目に入る存在にしたいと考えました。

その考えから生まれたのが、乾燥海藻を使った「海藻シャンデリア」と「昆布ペンダントライト」です。ステンレスフレームは三層構造。光が落ちると、水中から空を見上げるような感覚が生まれます。しかし、美しさだけでは成立しません。飲食空間である以上、安全性と耐久性が不可欠でした。

柳井友一さん(以下、柳井) 乾燥した海藻は、パリパリになったり、葉が落ちたりします。飲食空間で使う以上、安全性と耐久性は避けて通れませんでした。本来の風合いを損なわないように、レジン加工や撥水処理を施しています。汚れた場合は水で洗い、繰り返し使える構造にしています。

このシャンデリアには複数の海藻が使われています。クロメ・マクサ・アナメ・アツバノリ、ベニスナゴ、ヤツマタモク、ジョロモクなど、これらを単に混ぜ合わせるのではなく、「どの海藻が、どのように見えるのか」を一つひとつ確かめながら配置していきました。

食材をインテリアに使うという選択

食材そのものをインテリアとして使うことには、ためらいもあったといいます。

柳井 今まで、骨とかピーナッツの殻みたいな副産物を使ったことはありましたけど、素材そのものを使うのは初めてでした。

本物の海藻を空間に取り込むということは、単なる意匠ではなく、素材そのものと向き合うということでもあります。一方で、日本では古くから、漆喰の原料としてツノマタやフノリなどの海藻が使われてきました。1500年以上前から続くといわれるその文化を踏まえると、今回の試みは、まったく新しい挑戦でありながら、実は伝統を現代の空間へとアップデートする取り組みでもあります。それでも、葛藤はありました。

山森 食材をインテリアに使うことに、「もったいない」とか「罰当たり」と感じる方もいると思います。でも、まずは知ってもらうフェーズとして、会話のきっかけになることを大切にしました。これを見て、海藻に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

そしてもうひとつ、本物の海藻を使う理由がありました。

柳井 シーベジタブルさんとの交流を通じて、私たち自身の意識も変わってきました。私たちが普段目にすることのない海中の世界。その中で育まれる海藻資源は、地球温暖化や魚の食害など、さまざまな要因によって、気づかないうちに少しずつ減少しています。豊かな海を取り戻すために、いま自分たちにできることは何かと考えました。美味しくて、美しい海藻を未来へつないでいくこと。日本、そしてここ八重洲を起点に、世界の海洋資源を後世へ手渡していくことも、ひとつの役割なのではないかと感じました。空間に本物の海藻を使うことは、問題提起をするためではありません。まずは、目の前の素材に出会うこと。その存在を、近い距離で感じること。この空間で、海藻に出会い、知り、味わう。その体験を通して、ほんの少しでも海とのつながりを感じてもらえたら嬉しいです。

照明も壁もタイルも、それらは単なるデザインではなく、海と人との距離を、少しだけ近づけるための装置でもあります。

生き物としての海藻と向き合う

この空間づくりを通して、seccaが強く意識したのは、海藻を「コントロールできない生き物」として扱うことでした。

柳井 最初にイメージしていた色にならないことも多かったです。乾燥させると、思った以上に黒くなってしまったりして。こちらが完全にコントロールできない素材なんですよね。でも、その思い通りにならなさが、結果的に一番いい表情につながったと思います。


海藻は植物であり、生き物です。色や質感は、こちらの都合通りにはなりません。理想の色に寄せるのではなく、素材の状態に人が合わせていく。その向き合い方が随所に反映されています。

山森 素材に手を加えすぎず、できるだけありのままを見せたいと思っていました。それ自体が、私たちにとってもチャレンジでした。

完成形を決めきらず、変化を受け入れながら形にしていく。そのプロセスそのものが、今回の空間づくりの一部になっています。八重拠点には、ここまでご紹介した内装や照明以外にも、あちこちにこだわりが散りばめられているので、ぜひお店のスタッフに声をかけてみてください。ここでのひとときが、海藻の見え方や認識を、ほんの少し変えるきっかけになれば嬉しく思います。八重洲でみなさんに会えることを、楽しみにしています。

「シーベジスタンド」「SEAVEGE- Kitchen Lab」
所在地:東京都中央区八重洲1丁目5−11
アクセス:東京駅八重洲口から徒歩3分/日本橋駅から徒歩3分