海と都市をつなぐ、新しいご近所づきあい 野村不動産-シーベジタブル「Seavege- Neighbors」
2025年9月、野村不動産の新拠点「BLUE FRONT SHIBAURA TOWER S」がオープンしました。そのオープニングに合わせて、同施設1Fの「GREEN DINING HALL」ポップアップエリアでは、シーベジタブルによる体験型展示イベントを期間限定で開催しています。
今回の取り組みは、大手デベロッパーである野村不動産とシーベジタブルの協業によって実現しました。都市開発と海藻の研究開発と栽培技術に挑むスタートアップという一見異なる領域の連携ですが、両者に共通していたのは「人と自然が共生する都市をどう描くか」という課題意識です。従来の都市づくりの枠を越え、生物多様性や環境再生を街の価値に取り込むためには、海に根ざした知見を持つシーベジタブルとの協業に大きな意味がありました。
今回の体験型展示イベントは「Seavege- Neighbors(シーベジネイバーズ)」の第一弾でもあります。都市に暮らす人々が「海」をもっと身近に感じられるように、施設や地域ごとに独自のコンセプトを設計し、体験へと展開していく挑戦として企画されました。
今回、この企画のきっかけとなった野村不動産の長谷川さん・若狭さん、そしてシーベジタブル共同代表の友廣裕一が、企画の背景や今後の展望について語り合いました。
>話し手
中央)長谷川 徹さん(野村不動産㈱ 芝浦プロジェクト本部事業部部長)
左) 若狭 美穂さん(野村不動産㈱ 芝浦プロジェクト本部事業部事業課)
右) 友廣 裕一(合同会社シーベジタブル 共同代表)
ご近所づきあいのように、海と日常的につながる関係性をつくる
ー野村不動産とシーベジタブルの協業はどのようにはじまったのでしょうか?
長谷川 徹さん(以下、長谷川) 東京の都市開発はこれまで海に背を向けて開発されてきた歴史がありますが、江戸時代まで遡ると「水の都」と呼ばれるほど、水辺と共に暮らす都市でした。そこを現代にリバイブするのは、「BLUE FRONT SHIBAURA」を名乗る以上、私たちの使命だと思っています。芝浦プロジェクトは都市の利便性と自然の豊かさが響き合う「TOKYO & NATURE」をコンセプトに、空・海・緑との繋がりを意識した開放的な空間づくりを特徴としています。だからこそ、「海とのつながり」をきちんと形にするパートナーを探していて、シーベジタブルと出会ったわけです。
友廣 裕一(以下、友廣) 最初にお会いしたのは、都内で開催されたイベントでしたね。
長谷川 最初に「磯焼け」の話を聞いたときは衝撃でした。僕たちはデベロッパーなので陸の問題ばかり考えていたけれど、日本の海でこんな深刻なことが起きているのか、と。そこに本気で取り組んでいる人たちがいると知って、この人たちと組めば本当に社会に貢献できるかもしれないと感じました。その後に、もっとシーベジタブル社のことが知りたくなって、当時都内でポップアップをしていた「海藻ラーメン」を食べにいきました。
若狭 美穂さん(以下、若狭) 私はウォータフロントに位置するBLUE FRONT SHIBAURAの開発に関わり、海のこと、魚のことは考えていたのですが、「海藻」という切り口はまったく新鮮でした。友廣さんたちが純粋な目で海藻の話をしている姿に、すごく引き込まれたんです。単なるビジネスではなく、真摯に海に向き合っていると感じましたね。
施設や地域ごとに広がる、海と都市をつなぐ新しいモデル
ー今回の取り組みを見ていると、一つの施設にとどまらず、企業や場所ごとに独自の形で展開していけるのではないか、と感じます。そのあたりはいかがですか?
友廣 僕らは日本各地の海で研究者や漁師さんたちと一緒に、海面で海藻を育てています。ロープや籠を使って海中で海藻を育てることで、海の生態系を育む藻場の役割を果たしており、その結果、生態系が回復していくことを一般法人グッドシーがデータとして示しています。実際に「養殖藻場」をつくることで、藻場の内外で生物資源量に差が生まれ、魚の数が最大36倍に増加するという調査結果も得られています。
こうしたエビデンスが蓄積されたことで、単に「良いことをやっている」というイメージにとどまらず、プロジェクトが実際に環境へポジティブな影響を与えているというリアリティを示せるようになりました。その結果、生態系やサステナビリティの領域で具体的な成果を求める大手企業や行政といったプレイヤーとも、論理的な裏付けをもとに協業できる可能性が広がってきたと感じています。
こんなことができたら…という自由な意見の中に、「野村不動産の契約栽培的なシーファームを一緒につくろう」というアイデアもありましたよね(笑)シーベジタブルが海藻を生産する海の一区画を、企業向けに海藻を育てていくという仕組みです。
長谷川 そうですね。生産から消費まで、関わることができたら面白いと思っています。
友廣 大きな商業施設が「海」をテーマに掲げ、そこに並ぶのが契約栽培された美味しい海藻。その食材を食べることで健康に寄与できて、さらには生態系が回復していく。そんなストーリーはきっと生活者の方にも関心を持ってもらえると思います。どうせ食べるなら、環境負荷が低い方がいい。その考え方を体験として伝えられれば、とても価値があると思います。海藻は「食べるほど海が回復する」稀有な食材です。養殖藻場というマーケットができれば、海で海藻を育て、生態系を回復させる流れを生み出せる。しかもそれを見える形で展開できれば、都市と海をつなぐ新しいモデルになると思います。
長谷川 地域の学校との連携についても相性がすごくいいと思うんです。こうした展示やプログラムは地域の方々に歓迎されるはずです。施設内には展示スペースが多くあって、食やレストランのエリアともつながっています。例えば今後は、レストランなどで海藻を使ってもらうことができれば、誰かと食事に来たときに、自然に「海藻ってこんな役割があるんだ」と知ることができる。そういうポップアップ的な場があることで、ぐっと距離が近づくかもしれません。ところで、シーベジタブル社としての野望ってあるんですか?
友廣 日本中の海に、海藻の畑を広げていくことですかね。日本には約1500種類の海藻があると言われていますが、これまで種苗の生産から生産技術が確立していたのは、わかめやこんぶ、モズクや海苔など4種類くらいしかありません。僕たちはすでに30種類以上で種苗生産の技術を確立してきました。その土地に合った海藻を選び、育てることができる。つまり、日本中どこでも海藻を育てられる未来が見えてきたんです。
買い物ではなく意思表示:環境と社会を動かす体験
ー 今後の展開に期待することはどういったことですか?
若狭 私は商業施設に関わる立場として、消費を「買い物」ではなく「社会に対する意思表示」と捉えられる体験を提供したいと考えています。お客様が海藻を通じて「自分の行動が環境に意味を持つ」と実感できれば、それが未来の商業施設のあり方にもつながると思うんです。
長谷川 サステナビリティに真剣に向き合うのは当たり前なんですが、この分野はエデュテイメントがとても大事だと思うんです。つまり、エデュケーション(教育)とエンターテインメント(娯楽)を組み合わせた取り組みで、大事なのは「これ、面白い!」と感じてもらえること。正義感だけでは人は動かないと思うんです。その気持ちを共有できる取り組みを増やしていきたい。環境に向き合うことにエンターテインメントの要素が加わって熱量として人に伝播していく。そこから社会が変わっていくはずです。
友廣 僕らはずっと、研究や生産に全力で取り組んできました。海藻を育てれば生態系が回復するというデータまで出せるようになりました。でも、これをどうやって社会に広げていくのかという点では、僕らだけでは力が足りません。長谷川さんや若狭さんのように熱意を持った人とまず出会うことが大事だと思っていて。結果的に、野村不動産さんのように都市で大きな場をつくれる方々と協業できることで、僕らだけでは届かない都市生活者に発信できるのは、大きな可能性です。社会的義務感ではなく、「面白いからやってみたい」というポジティブな気持ちで広げていきたいと思っています。
長谷川 私たちにとってBLUE FRONT SHIBAURAはフラッグシッププロジェクトです。だからこそ、単なる収益ではなく社会的意義を持つものにしたい。シーベジタブル社は生物多様性を具体的にアクションへと落とし込める、非常に強いパートナーだと思います。
若狭 今回の取り組みを通して、お客様が海の現状を知ることで、自分の行為が社会や環境に関わっていることを実感できる場を提供したい。その第一歩として、この展示は大切な機会になるはずです。
「Seavege-Neighbors」は、都市と海をつなぐ暮らしの新しい提案です。海藻を通じて「ご近所のように」海と関わることができたら、私たちの暮らしはもっと豊かになるはず。ぜひ会場で、その第一歩を体感してください。
<プロフィール>
長谷川 徹さん(野村不動産株式会社 芝浦プロジェクト本部事業部長)
大学卒業後、外資建築設計会社で上海やシカゴにて中国、アメリカなどの大規模複合施設、豪華客船などの設計業務に携わる。2017年野村不動産入社後はBLUE FRONT SHIBAURAを担当、全体の事業管理、全用途(ホテル・オフィス・商業・住宅)の商品企画の取りまとめを行う一方で、サステナ・D&I等の領域についても取り組んできた。
若狭 美穂さん(野村不動産株式会社 芝浦プロジェクト本部事業部事業課課長)
大学卒業後、都市型ショッピングセンターの企画・運営を行う企業へ入社。ファッションをメインにライフスタイル提案につながる商業施設の企画や、和菓子や生鮮野菜を販売するリテール事業にも従事。2023年野村不動産へ入社し、以降芝浦プロジェクト本部にて商業エリアの企画を担当。
Seavege‑ Neighbors(シーベジネイバーズ)
シーベジタブルは、2025年9月に大規模複合施設「BLUE FRONT SHIBAURA」(東京都港区)内の野村不動産株式会社が手がけるGREEN DINING HALL内のポップアップエリアにて、体験型展示イベント「Seavege‑ Neighbors(シーベジネイバーズ)」を開催します。
本企画は、都市に生きる人々が「海」をご近所のように感じることを目指し、海藻を通じて都市と自然との新しい関係性をひらく1ヶ月間の展示イベントです。特設会場では、海藻の生態や多様性を知る展示、プロダクト販売、親子向けワークショップなど、五感で楽しめるコンテンツを展開しています。
イベント概要
イベント名:Seavege‑ Neighbors 海とつながる暮らし、はじめよう。
会期:2025年9月1日(月)~9月30日(火)
会場:BLUE FRONT SHIBAURA 1F GREEN DINING HALL内 ポップアップエリア