インタビューシリーズ「未来の海藻のつくり方」:VOL.7
陸の野菜は、それぞれ形や色や栄養が異なるように、“海の野菜”とも言われる海藻も一つひとつ個性があります。海藻の種類がさまざまなように、シーベジタブルにもさまざまな人が携わっています。研究者や料理人といった各分野のスペシャリストをはじめ、製品開発やプロデュースやロジスティックに携わるメンバーまで。
このインタビューシリーズでは、シーベジタブルに関わる内外の人々に話を聞くことで、海藻を取り巻く環境や、未来の食の可能性をのぞいていきます。
第七回目は、長年にわたり微生物と海藻の研究を行ってきた内田基晴さんにお話を伺いました。2022年にシーベジタブルの技術顧問としてジョインし、以降は研究者視点で事業に関わっています。いま世界では、海藻の「機能」や「成分」を軸にした研究・産業が加速している一方、日本ではその存在感が薄れつつあります。研究者だからこそ見える業界の課題と、シーベジタブルがもたらした変化、そしてこれからの協働のかたちを聞きました。

海藻産業は、なぜ伸び悩んだのか?
「日本の海藻養殖は、かつて世界をリードしていました。」
内田さんはまず、そう切り出しました。
海苔、昆布、わかめ、青のり。これらの養殖技術は、日本において高度に発展し、長く産業の中心を担ってきました。しかし、技術が安定したあと「次の問い」が生まれにくくなり、研究や開発の熱は少しずつ冷めていったと言います。
内田 一方で海外を含む業界全体では、海藻の主成分である多糖類を抽出して、寒天ゼリーやアイスクリームの増粘剤やゲル化剤などに使う。つまり海藻を直接食べるのではなく、食品工業原料という低付加価値素材として利用する方向で進んだのです。
日本国内で海藻の養殖技術が盛り上がっていた頃は、海外からも日本の研究は注目されてグローバルでの海藻業界をリードしていましたが、高齢化、人口減少、そして海水温の上昇。複合的な要因が重なり、国内の海藻業界は縮小傾向にあります。
内田 けれど、日本には海藻を日常的に食べる文化が残っています。文化が残っている限り、もう一度産業を立ち上げるチャンスはあると思っています。
育てるだけで終わらせない。食文化まで設計するシーベジタブルとの出会い
内田さんが初めてシーベジタブルを知ったのは、国立水産技術研究所で研究員として働いていた頃のことです。20年以上取り組んでいた「海藻の発酵研究」をきっかけに、共同創業者の友廣さんと蜂谷さんが研究所を訪ねてきたのが始まりでした。
内田 当時はすじ青のりの陸上栽培をやっている、新しい会社という印象でした。でも実際に話してみると、海藻を育てるだけでなく、おいしく食べることまでを事業の中で考えている。その姿勢に、大きな可能性を感じました。
多くの企業が生産か調理のどちらかに特化するなか、シーベジタブルはその両輪を同時に回しています。その一つの特徴として、社内にはプロの料理人が所属するテストキッチンがあり、海藻を使った料理開発や試食会、大企業との協業まで行っています。
内田 これまでの、日本における海藻業界は「育てた海藻を出荷したら終わり」でしたが、シーベジタブルでは、生産と料理を同じ屋根の下で進めることで、研究知見が現場の試作にすぐ反映される。このスピード感が、他にはないユニークな強みだと思います。

▲水産研究所時代、干潟を調査している様子
研究室の偶然から始まった、海藻発酵
内田さんの研究キャリアは、水産分野の微生物研究から始まりました。大学で植物プランクトンの培養をテーマに研究を行った後、2年間は大手食品会社で加工開発に携わっていましたが、より自分のやりたいことを追求するために、水産研究所に入り、35年間、微生物を活用した海藻の有効利用や貝類の資源回復研究などに携わってきました。「海藻の機能を、微生物の力でどう引き出すか?」、その問いが、長年の研究の軸になっていたといいます。
そんななか、ある日、思いがけない発見がありました。冷蔵庫の奥にしまい忘れていたサンプルを1年半年後に取り出すと、ワインのような香りを放ってました。試しに開けてみると、海藻が発酵していたのです。
内田 海藻も発酵するんだと驚きました。それから乳酸菌や麹菌、納豆菌などを使って、海藻を発酵させる研究を始めました。
この研究はやがて、シーベジタブルの製品開発にも生かされました。青のりを発酵させた「青のりしょうゆ」は、テストキッチンでの試行錯誤に、内田さんのこれまでの研究の知見が加わって生まれた例です。
内田 実験室の中で終わっていた仮説が、実際の商品として世に出る。研究者としては、これほど嬉しいことはありません。

現場の疑問に、研究で“すぐ”答える
現在、内田さんはシーベジタブルの一員として、社内外から寄せられるさまざまな質問に応えています。
内田 海藻の栄養成分や菌、衛生、加工条件など、質問は多岐にわたります。これまでの知見で答えられることもありますし、論文を読み直して根拠を確認することもあります。
こうした知識の即応性が、社内の開発スピードを支えているといいます。
内田 研究所時代は、専門分野の中で閉じた議論が多かった。でも、シーベジタブルでは研究が現場の課題と直結しています。『この温度帯で菌はどうか?』『この乾燥条件で風味は変わるか?』といったやりとりが翌週の試作に反映されていく。研究と実装の距離がとても近いんです。

微生物×海藻を掛け合わせた、新しい領域
内田さんが今後取り組みたいテーマは、「微生物との掛け合わせ」だそう。
内田 海藻と発酵を組み合わせると、食品だけでなく機能性素材としても可能性が広がります。 食物繊維や多糖、ミネラルなどの基礎的な知見を活かしながら、これからは調味料や飲料、素材開発にもつなげていきたいと思っています。まだ商品化はしていませんが、海草であるアマモの種を発酵させたビールを個人で研究開発したこともあります。
これまでほとんど誰も深く踏み込まなかった海藻発酵という領域。その挑戦を支えているのが、シーベジタブルという実装の場です。
内田 研究者にとって、実際の現場があるというのはとても大きいことです。データだけでなく、おいしさや社会の手応えを確認しながら研究できる。 そういう環境が、この会社にはあります。これからも新しいことを生み出せる会社であって欲しいと思いますし、研究者の視点を持って、そのお手伝いをできたら嬉しいです。
最後に、これからシーベジタブルと関わりたい企業や研究者へ向けて、内田さんはこう話します。
内田 シーベジタブルには私以外にも、様々な分野の専門家が関わっているので複数の視点で議論ができるのが面白いと思います。あとは発酵や微生物、食品機能の分野などにおいて、海藻にはまだ知られていない可能性がたくさんあります。研究や現場の知見を重ねていくことで、これまでにない食品や素材が生まれるかもしれません。仮説を実装できる場を探している方は、ぜひ一緒に挑戦してほしいと思います。
発酵をテーマに研究してきた内田さんに好きな海藻について質問してみると力強く「黒海苔!」と答えてくれました。
内田 家系ラーメンを食べるときは、いつも海苔を二倍にトッピングします(笑)。麺を海苔で巻いてスープにくぐらせる。あれは最高の食べ方ですよ。
黒海苔
社会的に海苔不足が深刻な課題となるなか、シーベジタブルは2024年、陸上での黒海苔の量産に成功しました。研究が進み、2025年10月時点で乾燥重量300kgの生産に成功しています。今後は、自社で確立した技術をもとに、黒海苔の生産量減少に悩む漁業者や地域の生産者と連携しながら、持続的な生産体制の構築を進めていきます。
企業や自治体との協働も視野に入れ、日本の食文化を支える黒海苔の安定供給を目指しています。

内田基晴(技術顧問/合同会社シーベジタブル)
水産研究所(現水産研究・教育機構)を定年退職後、シーベジタブルの技術顧問に就任。35年間の研究生活では、主に海藻資源の有効利用技術の開発に取り組み、特に海藻発酵技術を初めて開発しました。専門性としては、微生物学(微細藻類、海洋細菌、発酵微生物)、食品化学(海藻成分特に糖質成分)、機器分析(一般成分、ガスクロ、液クロ、DNA解析等)、食品加工(乾燥、殺菌技術)など多くの経験値を基に、現在はシーベジタブルのアドバイザーとして関わっている。
