インタビューシリーズ「未来の海藻のつくり方」:VOL.2
陸の野菜がそれぞれ形や色や栄養が異なるように、“海の野菜”とも言われる海藻も一つひとつ個性があります。海藻の種類がさまざまなように、シーベジタブルにもさまざまな人が携わっています。研究者や料理人といった各分野のスペシャリストをはじめ、製品開発やプロデュースやロジスティックに携わるメンバーまで。
このインタビューシリーズでは、シーベジタブルに関わる内外の人々に話を聞くことで、海藻を取り巻く環境や、未来の食の可能性をのぞいていきます。
第二回目は、すし作家で海藻料理研究家の岡田大介さんにお話を伺いました。岡田さんは、紹介制すし屋「酢飯屋」で、すし職人として活躍し、現在はシーベジタブルのパートナーシェフとして関わっています。これまで30種類以上の海藻を使って、200以上のレシピを開発。ブログでは1万字にも及ぶ熱量で、日々、海や海藻のことを発信する岡田さんに、海の中の世界をのぞいて何が見えたのか、お話を聞きました。
海藻ですし職人が成り立っている
ー 岡田さんが、シーベジタブルのパートナーシェフとして参画したのは2021年。海藻に注目した理由はなんですか?
僕は、釣りやスキューバーが好きなんですが、シーベジタブルに関わるようになってから、それらの活動のベースに海藻があることに気がついたんです。今でこそ、海藻料理研究家と名乗っていますが、はじめは全然詳しくありませんでした。ワカメ、コンブ、ノリ、ヒジキくらいしか調理したことがなくて。知らないから知りたいと思ったし、「海藻のおかげで、すし職人が成り立っているんじゃない?」と思うぐらいのインパクトを感じたわけです。
今では、頭に浮かんだ海藻料理を手早く作れるようになりました。誰かの家に遊びに行っても、冷蔵庫にある食材と海藻を組み合わせてさっと料理を作れますね。
ー 釣りやスキューバーといった活動のベースに海藻があるというのは?
海藻がないと生き物が産卵、生育しにくいといわれています。釣り、すし、スキューバー...... 僕にとって、これらは全て魚と出あうための活動なんです。魚も海藻も、「海」という自然の循環の中にある。海藻がなければ魚が育たず、釣りやスキューバーといった活動も、そして、すしを握ることもできません。それに気づいてから、自分の中で海藻の位置付けが変わりました。海藻はただの食べ物ではなく、環境や人間の生活を取り巻くものの根幹に位置しているんです。日に日にその実感は強くなり、外に向けて伝える役割をまっとうしたいと思うようになりました。
実は、すし職人をしていたときに、「うまいね」だけで片付けられるのが嫌でした。「すしって何でできているんだっけ?」と考えると、やっぱり海がなかったら、すしはできないんです。
ー シーベジタブルのパートナーシェフとして、どんな関わり方をされていますか?
シーベジタブルに関わりだした頃は、知り合いの料理人に海藻を紹介する営業活動をしていましたが、徐々に海藻料理のレシピを開発するようになりました。日頃から料理に必ず海藻を入れるようにしているので、おいしくできたら、シーベジタブルのslackで共有しています。一般的には、レシピ開発というと頼まれて作るイメージがあるかもしれませんが、自主的に作った料理をシーベジタブルのメンバーに共有していたら、いつの間にかレシピ開発につながっていった、という感じです。
他にも、シーベジタブルの海藻を使った商品開発にも関わっています。加工品を作るときは、作りたての料理と違った視点で考える必要があります。生の海藻は鮮度が命だけど、加工品や日持ちや、色やツヤ、風味を保つための工夫が必要で、外部の方と一緒に考えながら楽しく挑戦しています。
海藻はトップシェフにも、まだ知られていない食材
ー 海藻の魅力はどんな点にあると考えていますか?
料理人として、色々な食材を見てきたつもりですが、海藻は、まだ知られていないというところです。それは、トップシェフたちにおいても同じ。毎月、企業や料理人に向けて、シーベジタブルの海藻を使った試食会を行っています。これまで、様々なジャンルの料理人さんに食べてもらいましたが、まず最初に、海藻そのものがおいしくて驚くんです。料理は、奇抜なことをしたり盛りつけを工夫すれば驚かせることができるけど、海藻は簡単に調理するだけで喜んでもらうことができる。この点が一番おもしろいです。
ー 以前岡田さんは、「海藻を野菜のように使ってほしい」と言っていましたよね?
海藻を調理するのは、決して難しいものではないんです。ひじきの煮物や、ワカメを味噌汁に入れるなどの用途以外にも知ってもらいたいですね。例えば、「キャベツを使った料理を3種類作ってください」と伝えると、キャベツの特徴がわかってる人は作れちゃうんです。海藻も、それぞれの特徴がわかっていれば作れると思いますよ。
ー 海藻の特徴っていうと?
身近な海藻である昆布で考えてみましょうか。普段から昆布を調理することに慣れている人に、「昆布を使った料理を3種類作ってください」と伝えると、カレーを作る人がいたり、納豆の中に昆布をたたいて入れる人がいるかもしれない。なぜそれが作れるのかというと、昆布の特徴をよく知っているからです。カレーに入れたらとろみが出そうだなとか、とろみを生かすと納豆と合いそうだなとか、そういうイメージが沸くんじゃないのかな。
一方で、シーベジタブルが手がけている、あまり馴染みのない海藻は、それぞれの海藻の特徴がまだ知られていません。例えば、「とさかのり」という海藻は、立体的で自立しやすいという特徴があるのでサラダに合うという具合に、理由も添えてあげる必要があります。特徴がわかっていれば、作る料理も変わってくるはずです。そういう点では、海藻も野菜と同じだと考えています。
海の中の世界をのぞくと、何が見えるのか?
ー 酢飯屋のブログでは、ものすごい熱量で海や海藻料理のことを発信されていますよね。
海藻のことを知れば知るほど、伝えていきたいという想いが強くなっていきました。料理人に限らず、海の生き物の恩恵を預かっている僕たちは、やっぱり海藻を知らなきゃいけないと思っています。特に自分の場合は、それを提供する側にいるから、まずは海藻のことを深めて噛み砕いたことを、世の中に発信していかなければという考え方に変わったんです。
最初は、食材として海藻が面白いという好奇心からでしたが、知れば知るほど、いろいろな人に海藻のことを知ってもらって、食卓に取り入れてほしいと思うようになりました。
酢飯屋ブログ:日本橋三越本店 × シーベジタブル 「EAT & MEET SEA VEGETABLE」
ー そこまで熱心に伝えていきたいと思う原動力は?
野菜や肉や魚は、たくさんの人が好きだし、僕はお米が大好き。海藻も、体をつくる大事な食材ですが、なかなか興味が向かないようです。それは、海の中にあるということが一番大きいと思います。海沿いに住んでいない限り、海で起きていることには関心が向きません。でも、地球は表面の70%を海で覆われているわけです。そう考えると、地球は「海の星」とも言えるのに、海の中のことを知らないって「あれれ?」と思いませんか?
僕は、海の中のことを知らないのは、地球のことを知らないとも言えると思っています。海藻を食べる・食べないに関わらず、少しずつ、海の中を意識するような日常になっていくといいですね。
「生きものが食べものになる」という原点に立ち返る
ー シーベジタブルの海藻を使った料理を提供する「藻場亭(もばてい)」が始動しました。今後、どんなふうに発展していくと思いますか?
シーベジタブルの海藻を使った、海藻ラーメンや海藻天ぷらの監修をしました。ラーメンは、海藻を入れたスープの味が、食べる途中でどんどん育っていくんです。海藻は油との相性が良いので、天ぷらは以前から絶対にやりたいと思っていました。今後も、様々なジャンルで海藻を食べてもらいたいですね。
やはり、海藻を食べる場所がないと、その良さを伝えられません。今はまだ、世間に海藻料理というジャンルが確立されていないので、何を作っても新しく見えます。和洋中関係なく、多くの人が知っているようなメニューに海藻を入れて、海藻料理を知ってもらうきっかけを作りたいです。それを食べた人が、「自分たちだったら、海藻をこうやって使えるかもしれない」ということに気がついてくれたら嬉しいです。
ー すし、海、魚、海藻、釣り、執筆など、様々なチャンネルを持つ岡田さんが、今後、シーベジタブルで取り組みたいことは?
すしを軸に考えると、魚や米だけではなく、必ず海藻をセットで伝えるようにしています。今後は、海藻寿司の提供も増やしていきたいです。以前、「おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで」という絵本を書きました。釣り上げた魚をさばいて、だんだんと美味しそうな切り身になりすしへとかわって行く様子を、動画のように連続して見せる写真絵本です。
「生きものが食べものになる」というのが僕の原点にあるので、海藻も生きものであることを伝えていきたいです。シーベジタブルが提案する新しい海藻だけではなく、あらゆる海藻を使って海藻料理を提案していきます。
ー 最後に、岡田さんの好きな海藻を教えてください。
シーベジタブルの海藻は「とさかのり」が好きです。手軽で使いやすく、海藻の魅力を五感で感じることができます。サラダは混ぜるだけでどんな食材とも合いますよ。ひとネタとして、ピクルスやガリなどの酢漬けは、他の食材と一緒に漬けるだけです。
とさかのりは、九州などでとれていましたが、現在は環境省版レッドリストの準絶滅危惧種(※2022年5月時点)に指定されているほど減少しています。紅藻類の中でも色と食感が特徴で、加熱で溶ける性質があり、調理方法によって食感と形状の変化を楽しめます。シーベジタブルの公式サイトで、とさかのりのレシピをご紹介していますので、ぜひチェックしてみてください。
他には、シーベジタブルの海藻ではありませんが、長崎の一部で食べられている白藻(シラモ)が好きです。長崎県松浦市では「しろも・シロモ」と呼ばれています。2023年に初めて食べました。テングサと同様に紅藻類ですが、洗いと天日干しを繰り返すことで色が抜けて白くなっていきます。
使い勝手がよく、干した白藻を、さっと水戻しして食べると、海藻と野菜のいいとこどりをしたような、ショキショキとした独特な食感が魅力の海藻です。地元の人は当たり前に食べていますよ。シーベジタブルでも、ぜひ育ててほしいですね(笑)
シラモとキュウリの酢の物(酢飯屋ブログより)
岡田大介(すし作家/海藻料理研究家)
1979年生まれ。すし職人歴27年(2024年現在)東京都文京区にてすし屋「酢飯屋(すめしや)」を経営。生きものが食べものになるまでを突き詰めるために、すし職人の観点を常に持ちながら、まな板の上だけでなく海に潜ったり、釣りをしたりと、食材のホームグラウンドに入り込み、現在は「すし作家」として海、魚、すし、海藻にまつわる様々な活動をしている。『やりたいことは、やってみる。』これが岡田大介の基本理念です。著書に写真絵本『おすしやさんにいらっしゃい!生きものが食べものになるまで』、文庫『すし本 海から上がって酢飯にのるまで』。酢飯屋(ブログ)