インタビューシリーズ「未来の海藻のつくり方」:VOL.4

陸の野菜は、それぞれ形や色や栄養が異なるように、“海の野菜”とも言われる海藻も一つひとつ個性があります。海藻の種類がさまざまなように、シーベジタブルにもさまざまな人が携わっています。研究者や料理人といった各分野のスペシャリストをはじめ、製品開発やプロデュースやロジスティックに携わるメンバーまで。

このインタビューシリーズでは、シーベジタブルに関わる内外の人々に話を聞くことで、海藻を取り巻く環境や、未来の食の可能性をのぞいていきます。

第四回目は、シーベジタブルで海藻を研究する新北成実に話を聞きました。新北は、大学で藻類学の授業を受けたことで海藻に興味を持ち、在学中にシーベジタブルと出会います。日本をはじめ、多くの国で漁業従事者の平均年齢が上昇し、後継者不足が課題となっています。そんな中、研究者として北海道や高知を飛び回る新北に、海藻の魅力や漁師さんとの関わりから感じることを聞きました。

水産学での学びから、藻類の研究者へ

ー シーベジタブルで海藻の研究を始めたきっかけについて教えてください。

高校卒業後、漠然と「海の生き物が好き」という気持ちがあったので鹿児島大学の水産学部に進学しました。入学して2~3年が経ち、研究室を選ぶ段階に差し掛かる頃、周りの同級生は魚類を扱う道に進みましたが、自分は少し違うかも... と感じたんです。そんなときに海藻類の授業がありました。そのとき教えていた先生は、海中の美しい映像やフィールドでの研究を熱心に話してくれて、その一回の授業ですっかり海藻に引き込まれました。「これしかない」と思うほどの強い衝撃を受けて、授業が終わった後、その先生の研究室に所属することを決めました。

それから1年ほど経った頃に先生から紹介されたのが、九州で開催される海藻類に関するイベントでした。それが2021年にシーベジタブルが主催したシーウィードキャンプだったんです。当時は、鹿児島大学や長崎大学など九州の大学生が参加していて、海藻の生産現場を見学したり、海でフィールドワークしたり。それから、シーベジタブルの海藻を使った料理も食べました。

天草で開催されたシーウィードキャンプ(2021年)

ー シーウィードキャンプの第一回目は、熊本県天草市で開催しました。天草は、シーベジタブルが初めて海面栽培を行った場所でもあります。

特に記憶に残っているのは、共同代表の蜂谷さんが、キラキラした目で海藻の可能性について話してくれたことです。それがとても印象的で。海藻は食べるだけでなく、環境にも良いし、肥料や代替プラスチックなど多岐にわたる活用方法もあることを改めて感じました。自分も何か一緒にできたらいいなと思い、その後の研究や活動につながっていきました。

鹿児島大学を卒業後、東京大学大学院 農学生命科学研究科に入学するために上京して、シーベジタブルの活動が東京で活発になってきたタイミングでもあったので、大学に席をおきながらインターンとして関わるようになりました。ジョインした頃は、海藻の保存試験や品質管理に関わったり、専用機器を用いて客観的に数値化するなど、多岐にわたる仕事を担当しました。

ー 大学卒業後も海藻の研究を続けていきたいですか?

この2年ほどは、大学院を休学してシーベジタブルの研究に集中してきました。私は海藻養殖の実用化に興味があるので、より実践的な取り組みをしているシーベジタブルの活動に関わりたかったんです。休学を決めた後、東京から高知に引っ越して研究が始まりました。海面で生産するためには、漁業権を持っている漁師さんの協力が欠かせません。これまで、海苔やワカメなどの海面養殖を生業にしてきたような地元の漁師さんたちと話をしながら仕事を進めてきました。実は、2025年4月に大学院に復学しますが、卒業後は、またシーベジタブルで研究者として活動したいと考えています。

海藻の研究は海の未来をつくっている

ー シーベジタブルで海藻を研究しているメンバーは、どのような研究をしているのでしょうか?

シーベジタブルでは、各地の海で採取した母藻から種を取り出す技術を確立しているので、自社で種苗を生産しています。種を取り出す技術を研究するメンバーもいれば、その種苗で量産化に向けた応用研究をしているメンバーもいます。

メンバーによって研究する海藻が異なり、私は、これまで、あつばアオサや、はばのりを担当しました。例えば、海藻の厚みや成長速度を測定し、顕微鏡を使って詳細なデータを収集するんです。あつばアオサに関しては、商品化につながる技術の基盤づくりに関われたことが嬉しいです。

シーベジタブルでは、すでに種苗生産の技術を確立している種類は30以上、量産できる生産技術を確立している種類は10以上あります(2025年3月時点)。シーベジタブルは少数精鋭ですが、これだけ多くの品種を短期間で研究して生産することは、実は世界でも類を見ないスピードなんです。以前、シーベジタブルの海藻を使ってくれているシェフが、シーベジタブルのことを「シーウィードバンク(海藻の保存庫)のようだ」と言っていましたが、ぴったりの表現だと思います。

あつばアオサ

日本の海街で、世界最先端の研究と実践を

ー 北海道で昆布の養殖にも関わっているそうですね。

昆布の食文化は歴史が深く需要も大きいですが、天然の昆布の収穫量は、この5年で急激に落ち込んでいます。昆布は、主に北海道で一部養殖されていますが、長いこと天然で収穫できていたので、養殖技術や実績が十分ではありません。

生産者の高齢化も進んでいるし、このままでは昆布の産業が衰退していく一方です。あまり知られていませんが、実は昆布の加工は多いところで30工程もあるんです。手間をかけた価値ある製品作りに誇りを持つ生産者も多くいますが、収穫や加工の重労働に対する単価の低さが問題となっています。昆布の漁師さんと話をしていると、伝統と産業を守りながら、新しい生産の方法を模索する必要があると感じています。

ー 昆布の養殖にはどんな課題がありますか?

一つは、海水温の上昇です。特にウニが増えて昆布を食べてしまうので、環境面での影響も深刻です。昆布は、九州などの温暖な地域でも水温が低くなる冬であれば養殖は可能ですが、水温が上がることで養殖期間は短くなります。比較的、年中水温が低いはずの北海道でも同様の問題が出はじめています。それから、水温が低ければ昆布を養殖できるわけではなく、海の環境、つまり波あたりが厳しすぎる場所では養殖が難しいんです。

ただ、昆布の研究を進める中で、少しずつ養殖できる可能性が見えてきました。今までにない新しい方法なので、様々な課題に直面することもありますが、一つずつ乗り越えるたびに嬉しくなります。日本の小さな海街で、世界の最先端にいるなと思っています。

漁協関係者や漁師さんと共に取り組む海面栽培

ー 海藻の生産に欠かせない漁師さんと、どのように対話していますか?

日本の漁業権は基本的に各地の漁業協同組合の組合員である漁師さんが持っているので、海藻を海面で養殖するためには彼らとの連携が欠かせません。これまで、蜂谷さんや、海藻研究所 所長でシーベジタブルの海藻生態担当でもある新井章吾さんと一緒に、漁業組合や漁師さんと地道に対話を重ね、未来を見据えて協力いただける方々と取り組みを広げてきました。私自身は、研究者としてまだ経験を積んでいるところなので、力が足りていないと感じることや、自分の言葉で伝える難しさがありますが、シーベジタブルの技術力には自信を持っています。

ー 昆布の海面養殖の方法は?

現在は小規模でロープに昆布の種苗を付着させて、試験的に生産していますが、技術が確立してきて、量産化が見えてくれば、ロープを数百本から数千本にも増やす必要があります。漁師さんには、今までになかった新しい養殖方法を受け入れてもらえるように、コツコツと信頼関係を築く必要があります。私が関わっている釧路市東部漁協では、中心となっている漁師さんでも40〜50代。私の親世代くらい年が離れていますが、そんな漁師さんたちと一緒に新しい取り組みに挑戦していきたいです。

ー 毎日のように海に出ていて、いま感じていることは何ですか?

漁師さんからは、昔と比べると、魚の収穫量が減ってきているという話をよく聞きます。天然の海藻もとれなくなってきているので、漁師の仕事を辞めてしまったという方もいました。

一方で、海藻を養殖することで、海の生き物が増えるという実感があります。一般社団法人グッドシーが、海藻の養殖によって海の生態系が回復しているのか、2024年に調査を行いました。シーベジタブルもこの調査に協力をしていて、函館の昆布の養殖場と、養殖をしていない海域では、どれくらい海の生物に変化があるのかを定量調査したんです。

私も調査に協力をして、養殖した昆布に付着している生物を採取したり、海水や海底の砂を収集しました。養殖藻場内と、養殖藻場外のサンプルを分析して、それぞれ、どのような生物が生息しているのかを調べた結果、養殖藻場内の方が明らかに生物の種類も個体数も多く、新たな生態系が生まれていることがわかりました。

函館の昆布養殖に携わっている漁師さんたちにも、この結果を伝えました。漁師さんとしても、自分たちの養殖場で海藻にウニや魚が群がっていることは実感していたと言っていましたが、調査を通じて、生き物が増えていることが数値で明らかになり喜んでいました。私自身も、昆布の養殖が生態系によい影響を与えているのが嬉しかったです。

ー 最後に、新北さんが好きな海藻を教えてください。

一番好きな海藻は、昆布です!昆布は昔から馴染みのある海藻で、主に出汁として使われていますが、その印象を変えていきたいと思っています。近いうちにシーベジタブルが漁師さんとともに作った昆布が、レストランで提供されることを夢見ています。


新北成実(シーベジタブル 研究者)

長崎県で生まれ育ち、鹿児島大学水産学部に進学。在学中に海藻の美しさとその可能性に魅了される。その後進学した東京大学大学院を休学し合同会社シーベジタブルの研究開発チームの一員として活動中(2025年3月時点)。海藻類の種苗生産から陸上水槽や海面での養殖まで、更には海藻養殖をすることで周辺環境に与える影響も研究している。全国各地の漁師さんと持続可能で経済的にも循環する養殖藻場を作り広げるために全力疾走の毎日です。

 

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