すじ青のりが秘めた 食材としての魅力
「海藻の中でも すごくユニーク」
ナビゲーター:石坂 秀威
石坂 秀威 | いしざか しゅうい
シドニー出身。オーストラリアの U30 の料理コンテストで優勝後、2018年東京にオープンしてからわずか1年で2つ星を獲得した『INUA』でスーシェフとして料理開発を担当。その後シーベジタブルと出会い、自らも海に潜りリサーチしているうちに、"食べる"という視点で海藻の魅力を引き出してみたいと思い、仲間に加わる。
これまでに社内のテストキッチンで100種類以上の海藻と向き合い、料理業界でも知られていない海藻の食材としての可能性を発信してきた。社内に迎えた海藻×発酵研究の第一人者である内田らと共に、海藻の発酵研究にも日々取り組んでいる。
シーベジタブルの皆と出会ったのは2020年の11月頃。キッチンに乾燥すじ青のりを持ってきてくれたのを覚えていて。
初めて食べたとき、これは新鮮で作り立てだと思った。それまでに食べた乾燥青のりも決してわるいものではないけど、いつ加工されて、お店の棚にどのくらい置かれたものなのか分からなかった。けど、シーベジタブルのものは生を乾燥させたばかりだと思ったのを、今も覚えている。
それと磯っぽい感じが抑えられていて、爽やかな香りがして。純粋な青のりの香りがしてくれるなと思った。
それからシーベジタブルと一緒にすじ青のりを色々試そうとなって、まずは乾燥する前の生のすじ青のりを求めた。
なぜならば、例えば画家は何も描かれていない真っ白なキャンバスから始めるでしょう。僕の中では、乾燥すじ青のりは既に何かの色に染まっているキャンバス。乾燥という工程が入っていることで、自分ができることに制限が付く。生きている環境からそのまま取り出した状態のもので始めたいと思って。
それで最初は、すじ青のりをお皿の主役として使うより、どうやって最高のサポート役の食材として使えるかを試した。
その理由は、青のりって今までは何かに振りかけるくらいの使い方がほとんどだから、急にお皿の主役にしちゃうとなかなか受け入れられにくい。それよりまずは、すじ青のりってこんな味がするんだ、こんな使い方もできるんだと知ってもらいたくて。
試したのは調味料。ベーシックなもので、家庭でもプロでも必ず手元にあって使うものにしようと。
すじ青のりは生でも香りが良い。器として食材の香りを抽出する力があるのはオイル。だからまずは、すじ青のりのオイルを作ろうと思った。これがすごく上手くいって、美味しいものができた。
このとき米油を使ったから、じゃあ今度は動物性の油にすじ青のりの香りを移したらどうなるかと思って、次はバター。すじ青のりの焦がしバターみたいなものを作って、これも面白かった。
動物性の油だと、口の中のすじ青のりの香りの広がり方が全然違って、美味しい。じゃあすじ青のりは乳製品すべてに相性の良い食材かもしれないと思って、今度はミルクをやってみることにした。
すじ青のりの色と味を移したミルク。これも本当に良くて、ここですごく世界が広がったような、可能性が広がったような。
青のりって結局、和食だけにしか合わない食材だと思われていると感じていて。一番分かりやすいのは、お好み焼きとかタコ焼き。高級店で汁物に入れることもあるかもしれないけど、すべて和。なかなかイタリアンやフレンチに入りそうな食材ではない。
だけど、ミルクって世界中どこでも使われている食材。すじ青のりの香るミルクがあれば、形は無くても、すじ青のりのほのかで繊細な香りを、ミルクが入るレシピで自然と感じることができる。海藻が入っていることに気づかないくらい、受け入れられやすくも面白い味になってくれる。
それで次に作ってみたのが、最もミルクの品質が大事だと思うアイスクリーム。
青のりのアイスって聞いたことがないから面白いと思うけど、ただ面白いだけじゃなくて、最終的に美味しかったのが大事なポイントで。
もし青のりのアイスクリームを食べたことのある人がいたら、ほとんどの場合はバニラ味かミルク味のアイスクリームに青のりが混ざったものだと思う。そうではなく、すじ青のりミルクを使ってアイスクリームを作ると、なぜかもっと旨味が効いて、塩味があって。
色は抹茶アイスに似た黄緑色で、味も確かに少し抹茶っぽさがある。でも抹茶には絶対にない美味しさがあって。日本に来てから抹茶アイスをよく食べていたけど、それより美味しいアイスクリームができちゃった。
それからは自分が想像できるミルクを使うお菓子、クッキーとかティラミスとか、いろいろ作ってみて。
マスカルポーネやリコッタ、フレッシュチーズも作ってみると、またそれが面白い。今後はすじ青のりミルクを発酵させて寝かせたチーズも作ってみたいと思っている。カマンベールチーズも良いな。
ほかにも味噌を作ってみたり、発酵系はいろいろ実験してみて。
すじ青のりは何を試してもすごく面白い化け方をした。実は、ほかの海藻でも同じことをやってみたのだけど、上手くいかないものが沢山あった。
そこで改めて思ったのは、すじ青のりって海藻の世界でもすごくユニークだなって。初めてこれだけ向き合った海藻がすじ青のりだったのは、本当に奇跡的で。
でも、生のすじ青のりは、ひと手間加えないと何にもならないっていうのがあって。美味しくなるかどうかは、使う人の知識や技術に依るところがすごく大きい。
だから、シーベジタブルが最高のすじ青のりを上手に乾燥させていると、そこで一気に料理に使いやすいものになる。
絶対に美味しいと思えるのは、リゾット。
最後に混ぜ込んで、お皿によそってからもさらに上に乗せるのは、最高に美味しい。
バターを使ってフライパンで焼いた魚にも良いと思う。魚が焼きあがったベストなタイミングでフライパンのなかに乾燥すじ青のりを振りかけて、すぐに盛って食べる。これも美味しい。
乾燥したすじ青のりには、その香りを一品に加えたいと思ったときに、本当にひと摘みですぐに解決できる力がある。
パックを開けて料理に振りかけたり和えたりするだけで、その美味しさを与えられる。
だからある意味、お好み焼きとかポテトチップスとか、日本ではすじ青のりの一番美味しい使い方をしてきたのだと思う。
ただ、この香りに合うものは他にもあるはずだから、いろいろ試してほしいな。