ハバノリが秘めた 食材としての魅力
「一番海藻らしくない海藻」
ナビゲーター:石坂 秀威
石坂 秀威 | いしざか しゅうい
シドニー出身。オーストラリアの U30 の料理コンテストで優勝後、2018年東京にオープンしてからわずか1年で2つ星を獲得した『INUA』でスーシェフとして料理開発を担当。その後シーベジタブルと出会い、自らも海に潜りリサーチしているうちに、"食べる"という視点で海藻の魅力を引き出してみたいと思い、仲間に加わる。
これまでに社内のテストキッチンで100種類以上の海藻と向き合い、料理業界でも知られていない海藻の食材としての可能性を発信してきた。社内に迎えた海藻×発酵研究の第一人者である内田らと共に、海藻の発酵研究にも日々取り組んでいる。
僕が食材で面白いと思うのは、例えば野菜なのに野菜らしくない性格や香り、味を発見したとき。そんなところが料理をしていて一番面白いと感じる。
その点、ハバノリはすごく面白い。
食べてみると、海のものではなく陸上植物のような味がする。栽培された葉野菜ではなくて、山に野生で生えている、「これは食べられる」という植物を見つけたような。
何より独特の苦み、そう、まさに山菜のような。それと、他の海藻には絶対に無い、青くさい香りがあって。少し薔薇っぽい味もする。でも、苦味と青くささは何とかして一生懸命に抜いて、やっと食べられるようになるアクやエグミのようなものではなくて、そのままの味として楽しめる。
ハバノリは、僕が今まで食材として使ってきた海藻の中で、一番海藻らしくない海藻だった。
だから、一般的には扱いにくい食材なのかもしれない。料理のことを知っていて、経験がある人が、これは変わった味だなって楽しめるのが、ハバノリの良いところ。
料理の世界では、草っぽい、青くさいということは決して悪いことではない。単純ではない複雑な味わいとして使うことができる。ワイン業界でもそんな表現をするでしょう。
草っぽい味はどんなものと相性がいいのか。それはシンプルに、草があるところで育ったものだと思った。それでイナゴと合わせて、イナゴハバノリ醤油を最初につくった。ハバノリの特徴である“海藻らしくない”ところを出したいから、あえて普通の海藻ではやらないものを試したんだ。
今回の乾燥ハバノリの良いところは、鮮度の良いうちにしっかり乾燥されているから、生の香りがちゃんと保たれている。
まずは難しいことは考えずに、焼海苔を使う料理に代わりに入れて、いつもとは違う面白い味にしてみてほしい。それが一番分かりやすい使い方。
ハバノリの香りが純粋に好きな人なら、色々なジャンルの料理へ、ハーブやスパイスのように振りかけても良いと思う。
それと、実は、ハバノリはバターとの相性が良い。僕が思う良いバターは、ちゃんと草を食べている牛の牛乳から作られたもので。
ハバノリは草っぽいと言ったけど、乾燥ハバノリをバターに合わせるだけで、どんなクオリティのバターでも良い風味になってくれる。バターをより美味しくしてくれるんだ。
加熱し過ぎると香りが飛んでしまうハバノリの香りも、バターが器として受け止めて、ハバノリの風味を保存してくれる。ハバノリが油分を含んで少し柔らかくなったときの食感も結構良くて、美味しく使える。
あと、ねばねば好きな人のための料理で、なぜそこまで粘るものを合わせるんだっていうものがあるでしょ。
同じようにハバノリもクセのあるものと合わせると、より個性を楽しめる。納豆や塩辛、パクチーとか、日本人はクセのある料理や食材が好きだから、好きな人はこれ以上ないってくらい美味しく感じられるかもしれない。
そうやってハバノリは独特な香りを抑えてしまうより、そのクセをより楽しむように工夫すると、一番可能性が広がると思うんだ。