インタビューシリーズ「未来の海藻のつくり方」:VOL.6
陸の野菜は、それぞれ形や色や栄養が異なるように、“海の野菜”とも言われる海藻も一つひとつ個性があります。海藻の種類がさまざまなように、シーベジタブルにもさまざまな人が携わっています。研究者や料理人といった各分野のスペシャリストをはじめ、製品開発やプロデュースやロジスティックに携わるメンバーまで。
このインタビューシリーズでは、シーベジタブルに関わる内外の人々に話を聞くことで、海藻を取り巻く環境や、未来の食の可能性をのぞいていきます。
第六回目は、海藻栽培現場統括マネージャー(2025年8月時点では、みりん・もずく・スーナを担当)を務める髙木響に話を聞きました。大学在学中にインターンとして関わったことをきっかけに入社。目指したい世界を実現するために、様々なパートナーと共に日々伴走する姿からは、一つひとつの現場に丁寧に向き合いながら、確かな変化を積み重ねていこうとする強い意志と、海や人に対するまっすぐな思いが伝わってきます。幼い頃から好きだと言う魚が生息する海を守りたいという純粋な思いをもつ髙木に、海藻の可能性や魅力を聞きました。

魚が好きという思いから広がった、“海との関わり”
ー 髙木さんは釣り師としても活動していますが、シーベジタブルにはどのようなきっかけで出会いましたか?
2019年夏に、授業の一環でシーベジタブルの拠点を見学したのが始まりです。当時、シーベジタブルの共同代表である蜂谷の後輩として高知大学に所属していたのですが、私自身が海に関心があったこと、教授に「近くに面白い事業をしているところがあるから見学しよう」と言われたことがきっかけでした。
それまでシーベジタブルのことは知らず、海藻への興味も低かったのですが、幼い頃から魚が大好きだったこと。そして、当時は釣り師としても活動していたことから、魚だけでなくそのまわりの環境、とくに海藻のような海の植物についても興味を持つようになりました。
水産業は伝統的な分野なので、イノベーティブな仕事は少ないと思い込んでいましたが、シーベジタブルは誰もやったことのないような革新的な取り組みをしていて魅力を感じました。1週間ほどのインターン期間では、すじ青のりの水槽掃除や種取り、生産現場での作業など、基礎的なことを学びました。蜂谷の出張にも同行して、とても濃い経験ができました。
ー シーベジタブルには、大学卒業と同時にジョインされたのでしょうか?
大学4年生で進路を決めるときに、「釣り師(プロアングラー)も、シーベジタブルの仕事も続けたい」と思ったので、大学卒業後の1年間は、釣り師とシーベジタブルの仕事を両立していました。海の近くにある大学に入学してからも、時間があれば釣りに行く日々で、その様子をSNSで発信していたところ、釣具メーカーからお声がけいただき、そのご縁から釣竿のプロデュースやテレビ番組への出演に繋がりました。
どちらも本当に楽しくて、大切な経験でした。ただ、釣りの発信を続けているだけでは、「海の環境を守る」というところまではなかなか踏み込めないなと感じたんです。そんな中でシーベジタブルは、事業として減ってしまった海藻を増やす取り組みを実現していて、「魚がいる海を守りたい」「海の環境のために何か行動したい」という、自分の中にあった思いを形にできると感じたんです。そこから、徐々にシーベジタブルの活動に軸足を移すようになりました。
ー シーベジタブルにジョインすることで、髙木さんの「海の環境を守りたい」という想いを叶えられると感じたポイントを教えてください。
海藻は、魚たちにとっての住処や隠れ家、そして大切な食べ物の提供場所にもなります。そんな海藻が減ってしまえば、当然、魚の数も減ってしまいます。大学時代に高知の海に潜ったとき、本来なら海藻が広がっているはずの場所が、まるで何もないような殺風景な光景になっていて、本当に衝撃を受けました。このままでは魚もいなくなってしまうかもしれない、そんな強い危機感を抱いたのを覚えています。今の日本の海も、沿岸の資源量の減少や釣り場の減少といった課題を抱えていて、改めて海藻の役割の大きさを実感しています。
そういった課題を解決するために釣り業界が行っている活動は「釣り場のゴミを拾うこと」。もちろん釣り場の保護に繋がる大事な活動ですが、それだけでは海の生態系を増やしたり釣り場の減少を食い止めたりするような、根本的な解決ができません。釣りをこれからも続けていくためには、環境保護や一次産業についてもっと深く知り、本質的な解決策を考えていくことが大事だと思うようになりました。だからこそ、海藻を海に増やしていくシーベジタブルの取り組みは、自分の関心や思いに重なるものがあって、「ここでなら、本当に意味のあるアクションができるかもしれない」と考えました。人が作る藻場が、環境に対してどのくらいのインパクトを与えられるのかを、実際に自分の目で見て判断していきたいと思ったんです。
「釣り業界に還元したい」「釣りや海への関心がない人たちにも、海の素晴らしさや、それを守るためにどうしたらよいかを伝えたい」という思いを叶えるために、シーベジタブルでの活動はすごく意味があると感じています。そして、10、20年後の未来にも、岸から魚がたくさん釣れるような海を守っていきたいという思いがあります。
地域にいる人たちと共に、海藻の可能性と向き合う
ー シーベジタブルでの、髙木さんの役割を教えてください。
大学在学中からシーベジタブルに在籍しているからこそ、ラボや生産現場の業務、拠点の立ち上げなど、多岐に渡る業務に関わってきました。今は、それら全ての経験を活かして、全体を見渡して管理する仕事を任せてもらっています。
そして現在は、みりん、もずく、スーナという海藻の生産管理を担当しています。たとえば、どの海藻をいつ・どのくらい育てるかといった生産スケジュールを立て、シーベジタブルのラボ(研究施設)と連携しながら、まずは海藻の種苗づくりから始めます。
そのあとは、全国各地の海域の特性や気候条件を踏まえて、どの海でどの海藻を育てるかの計画を立て、漁協や漁師さんなど地域のパートナーと協力しながら、実際に生産現場を整備していきます。さらに、海に出て海藻の育成状況を定期的に確認し、順調に育っているかをモニタリングします。その上で、必要な人員の手配や、海域ごとのスケジュール調整など、現場全体のマネジメントも行います。収穫の時期が近づけば、収穫作業の段取りを組んで、収穫後の保管方法や加工工程までを含めて管理します。
そんな風に、海藻の種づくりから収穫・加工まで、すべての工程に関わる役割をしています。
ー これまでの業務を振り返って、大変だったことは何ですか?
海藻の収穫は、最も大変な業務だと感じます。最初はわずか数ミリの小さな種でも、育てていくうちに、やがて海一面を覆うほどに成長し、最終的には何トンもの量を収穫できるようになります。どうやって収穫するかを海の状況や天候を見ながら綿密に計画し、船の手配や作業チームの人数、必要な道具などをみんなで話し合って調整します。収穫当日は、波の高さや潮の流れなど想定外のことも多く、その場その場で判断して動く必要があり、毎回が真剣勝負です。
また、研究が実を結んで、これまでバケツ数杯だった収穫量が何トン単位になったときは、大きな喜びである一方で考えなければならないことが多く、本当に大変でした。それまでの手作業中心のやり方では追いつかず、クレーンや大型機械を使った新しい方法をゼロから考える必要がありました。こういった変化を一緒に乗り越えるためには、地元の漁師さんたちとの連携が欠かせません。機材や人の手配、手順の見直しなど準備だけでも一苦労ですし、当日も波や天候の変化で予定通りに進まないことが多く、その場で判断して動く力が求められます。
栽培から収穫まで、大変なことは多々ありますが、多くのパートナーに協力していただいて乗り越えています。地元ダイバーや地元漁師(黒井漁協組合員)など、関わるパートナーが多いからこそ、協力しながら円滑に業務を進めるために、日々のコミュニケーションを大事にしています。そして、皆さんに色々ご協力いただく代わりに、私たちがパートナーの皆さんに対してできることがあれば全力で返すように心がけています。
ー 漁師さんとのコミュニケーションで、印象に残っているエピソードはありますか?
今年(2025年)は、深海にいる6人の漁師さんと協力しながら、みりんの生産に取り組んでいます。もともと皆さんはワカメ漁をされていたのですが、海水温の上昇によってワカメが育たなくなり、代わりに別の海藻を育ててみようと考えておられました。ちょうどその取り組みが、シーベジタブルの栽培場所のすぐ近くで行われていたのですが、皆さんからすると私たちは実態のよくわからない余所者なので、最初は警戒されている部分もあったかなと思います。しかし、私たちとしては、地元の漁師さんたちとタッグを組んで事業を進めていきたいという思いが強くあったのでその気持ちを丁寧に伝えていきました。そのうえで、「ぜひ一緒にやっていきたい」と何度もお話しさせていただいた結果、共に事業を進めていける関係が築けたんです。今では、本当に良い関係性の中で、力を合わせてみりんの生産を続けています。
小さい頃から魚や釣りが大好きで、海辺の景色が大好きだったからこそ、漁師さんの数が減り、漁村がどんどん寂しくなっていく様子を見るのは、本当に辛く感じていました。もともと「漁師さんたちの力になりたい」という思いもあったので、今それを仕事として実現できていることが、素直にとても嬉しいです。
そして、ただ一緒にやるだけでなく、漁師さんたちにとってもきちんと利益が出る、持続可能なビジネスモデルをしっかりつくっていきたいという気持ちがあります。本来、島国だからこそ日本の沿岸地域は、一次産業を中心に活気ある場所であるべきだと思っています。だからこそ、少しずつでもまた賑わいが戻るように、パートナーである皆さんと力を合わせながら、できることを一歩ずつ進めていきたいです。
海藻栽培を通して、持続可能な海の未来を描く
ーシーベジタブルで実現したいことを教えてください。
何よりも、「養殖藻場」を広げることです。海藻が繁茂して出来る藻場は、魚にとって絶好の産卵場や隠れ場になっています。シーベジタブルでは、その海域に合った海藻を海面で栽培することで「養殖藻場」と呼ばれる、海の生態系を回復させる機能を持つ環境をつくっています。例えば、私たちが育てるもずくやみりんの養殖藻場には、多くの魚の稚魚が集まる様子を見ることができます。これからも魚達の揺籠となる藻場を増やしていくことで、少しずつ海に対してポジティブなインパクトを作っていきたいです。
そのために、海藻栽培を大規模化して、もっと多くのパートナーと一緒に事業を進めたいと思っています。今は漁師さんたちと二人三脚で海藻の栽培に取り組んでいますが、シーベジタブルの手から離れても、漁師さんたちが自走して事業を回せるような仕組みやノウハウを蓄積していきたいと考えています。持続可能でなければ意味がないので、引き続き環境にも配慮したビジネスモデルを回しながら規模を大きくしていきたいですし、それが未来の海を少しでも守ることに繋がると信じています。
ー 最後に、髙木さんの好きな海藻を教えてください。
ワカメや昆布、アカモク、モズクなどのいわゆる「海の森」を作る海藻が好きです。これらが「海の森」と言われている理由は、一番下にモズクが生えてその上にアカモクやワカメ、そしてヒジキが生えてくるなど、海の中に群生して森林のような階層構造を作っているからです。海藻が作る海の森は、魚や貝などの海の生き物にとって産卵場所や敵からの隠れ家となってくれますし、素晴らしいすみかを提供するので、とても魅力的だなと思います。
髙木響( 海藻栽培現場統括マネージャー/合同会社シーベジタブル)
1998年、京都生まれ。幼い頃から魚に魅了され、“魚オタク”として育つ。高知大学在学中には、日本各地の海で釣りやダイビングを重ねるうちに、磯焼けの深刻さを実感。このままでは魚がいなくなってしまうのではないかという危機感から、水産業の課題解決を模索する中で、シーベジタブルに出会う。現在は、10、20年後も海を覗けば多様な魚が泳ぐ豊かな海を守るために奔走している。また、釣りを通じて海や魚の魅力を発信する活動にも取り組んでいる。
*養殖藻場:その海域に合った海藻を栽培することで“養殖藻場(もば)”と呼ばれる、海の生態系を回復させる機能を持つ環境をつくっています。