海藻ラーメンからはじまる、<食文化をつくる場所>をつくる理由

シーベジタブルが、2026年3月に東京・八重洲で新たにオープンさせる「シーベジスタンド」。昼は海藻ラーメン、夜は居酒屋として、海藻料理とともにさまざまなお酒を楽しめます。ラインナップのひとつとして、各業界のパートナーと連携したオリジナルの海藻ドリンクやアイテムも提供予定で、その中に海藻クラフト酒も含まれます。

しかし、この店を語るとき、単に新しい飲食店ができるという説明では足りません。
この場所は、海藻の新しい可能性を社会にひらくための食文化の発信拠点でもあります。シーベジタブル 共同代表・友廣裕一に、この店が生まれた理由と背景を聞きました。

なぜ、いま常設店なのか?

— まず、常設店を出す決断をした理由を教えてください。

共同代表 友廣裕一(以下、友廣) ずっと「いつか常設で海藻料理を食べてもらえるような場をつくりたい」という想いはありました。ただ、飲食店を運営したいというより、海藻の食文化の未来をひらくには自分たちで場所を持つ必要があったという方が大きいです。これまで僕らは海藻を育て、加工し、全国の飲食店の皆さんにお届けしてきました。ありがたいことに素晴らしいお店ばかりで、さらに取引先の数も増えているのですが、海藻が使われる場面の多くはどうしても脇役です。お料理の香り付けや、スープのアクセントとしての使われ方。もちろんそれも海藻の特徴ですし、よい使われ方ではあるのですが、それだけじゃなく「海藻そのもの」を味わう食べ方の魅力を伝えきれないもどかしさがずっとありました。

「SEA VEGETABLE Test Kitchen」やパートナーの岡田大介さんたちを通して、新たな調理法や加工方法を探っていくうちに、海藻は主役にもなれる食材だという確信が強くなりました。しかし、取引してくださってるお店に「こうやって使ってください」とお願いするのは難しい。海藻そのものがマイナーな食材で、さらに顕在化されたニーズがあるわけではないからです。だからこそ、自分たちでまず既成事実として先行事例をつくらなきゃいけないと思ったんです。海藻が主役の料理がちゃんと美味しくて、それを「食べたい」という人たちがたくさんいることを。それをリスクを取ってやれるのは自分たちしかいないんじゃないかと思っていたんです。だから、そのための場所がほしかったんです。

ラーメンが<メディア>になり得る理由

— 昼の看板は海藻ラーメンです。なぜラーメンなのでしょう?

友廣 ラーメンは、海藻の美味しさを最短距離で伝えられる料理だと思ったからです。ラーメンって、国も世代も超えて親しまれている料理ですよね。さらに岡田さんが開発してくれた海藻ラーメンであれば、素材そのものの味も知ってもらえる。世界でも親しまれている日本のラーメンという料理であれば、より多くの人たちに海藻の可能性を知ってもらうことができるのではないか、と考えました。

2024年以降、様々な場所で海藻ラーメンを提供してきましたが、シニアの女性がスープを全部飲み干して「こんなにおいしい海藻があるんだね」と言ってくれたのが印象的でした。これまで、海藻が主役の海藻天ぷら専門店を期間限定でやってみたり、本当においしい海藻サラダを提供したくてポップアップをやってきたんです。でもラーメンは反応してくださる人たちの年齢や属性の幅が広く、さらにそのリアクションもまったく違う。

今回のラーメンの提供方法では海藻を煮込まないので、それぞれの海藻の味や香り、そして食感が味わえます。それが時間が経つにつれて、スープの熱で海藻の味が変化していく。その移ろいも含めて楽しめる。海藻の個性をそのまま体験できる料理って、なかなかないんですよね。海藻ラーメンは、海藻の美味しさを伝える“メディア”になり得ると感じています。

海藻ラーメンは「まだ進化する一杯」

— 一杯の形はどのように決まっていったのでしょう?

友廣 ラーメンのスープは、シーベジタブルのパートナーシェフである岡田大介さんと議論を重ねてきました。具材には、すじ青のり、とさかのり、若ひじきなど、複数種類の海藻を組み合わせています。噛むほどに風味が変わる海藻、スープの熱で柔らかくなる海藻など、それぞれの個性が一杯の中に散りばめられている。ヘルシーなんだけどちゃんと満足感があって、でも食べ終わっても重くないものを目指しました。スープは鯛のアラを焼いたものに「青のりしょうゆ」など入れた、いわゆる無化調(化学調味料不使用)ですが、ラーメン好きの方々からも食べごたえがあって美味しい!と高評価をいただいてきました。

これから提供する一杯は現時点でのベストですが、「完成形ではないよね」と岡田さんとも話しています。海藻は季節で表情が変わるし、これからも新しいアイデアをどんどん試していく予定です。シーベジスタンドのラーメンは、進化し続けていくといいなと思っています。

夜は居酒屋。交流が生まれる店にしたかった

— 夜の営業スタイルについても教えてください。なぜ居酒屋という形にしたのでしょうか。

友廣 昼は、時間がない方も多いので、個人で静かにラーメンを味わう場所。夜は、人と人が自然に交わる場所にしたかったんです。お店ができる八重洲は、東京駅・日本橋駅至近にも関わらず、まだ路地裏には雑多な飲み屋街があったりする。いろんな属性の人たちが混ざりやすい街だなと。日本各地で生産や研究を行っている我々が、世界から人や情報が集まるこの場所で、海藻をきっかけに交流が生まれる場所をつくれたら面白いと思いました。

居酒屋は、基本的には立ち飲みです。立ち飲みという形態を選んだ理由としては、フロアの面積が広くないということもありましたが、イベントがやりやすかったり、座り席よりも偶然の会話が起きやすいのでは…. と考えたからです。たまたま来た人、海藻に興味がある人、取引先の人… その場に居合わせた人同士で自然と話せるような雰囲気がつくれるといいなと思っています。

料理は「すじ青のりかけすぎフライドポテト」、人気レストラン〈Pizza 4P's〉とのコラボメニューである、すじ青のりをフレッシュなストラッラャテッラチーズと共に閉じ込めた香りと味わい豊かな特別な「すじ青のりブッラータチーズ」、海藻サラダや季節ごとの海藻プレート、生のすじ青のりがある時期は他では味わえないスペシャルな磯辺揚げなど、海藻尽くしで、海藻の新しい一面を感じられる一皿を用意しています。

共創でつくるお店は“厚み”が違う。多くの仲間の力が集まった

— お店そのものを形にしていくプロセスには、どんな人たちが関わっているのでしょうか。

友廣 最短距離でつくろうと思えば、もっと簡単にできたと思います。でも、あえて時間をかけ、多くの人に関わってもらいました。時間もエネルギーもたくさんかかりましたが、結果的にお店にいろんな人たちの想いが埋め込まれて、すごく厚みが生まれたと思います。

まず大きかったのは、世界で人気のピザレストランで、 ベトナム・ホーチミン一号店オープン以来、アジアを中心にグローバルで30店舗以上を展開する〈Pizza 4P’s〉のグローバルクリエイティブディレクターである久保田和也さんがアドバイザーとして入ってくれたこと。

〈Pizza 4P’s〉の店舗は、料理・空間・器・素材、すべてが誰かとの共創でつくられているんです。例えば、シーベジタブルの海藻を使ったピザやゼッポリーネという人気メニューがあるのですが、これらも生産現場を見に来るところからはじまっているし、さらには海藻を漉き込んだ和紙をつかったランプシェードも作ることになりました。いろんな人たちと一緒につくる姿勢が徹底しているんですよね。店に並ぶものの背景に必ずストーリーがある。その必然性のある店づくりに強く惹かれました。僕らも、海藻という素材の背景や、人とのつながりが感じられる店にしたかったので、久保田さんの存在は本当に大きかったです。

左)すじ青のりとおかひじき あさり   右)桜エビとアオサのゼッポリーネ   

設計は鈴木一史さん(埴生の宿)福田和貴子さん(studio vandrer)。特に鈴木さんは設計から施工まで手掛けるということで、現場に深く入り込み、素材からつくってどうやって実装するかまで向き合ってくれました。建築PMは晴信さん(株式会社つぎの)。膨大な調整を一手に引き受け、静かに支え続けてくれています。体験設計はseccaの上町達也さん・柳井友一さん・山森萌子さんたち。コンセプトメイクからはじまり、昆布を使った象徴的なランプなど、細部まで海藻の表情をどう立ち上げるかを一緒に考えてくれています。クリエイティブディレクションはShhh inc.重松 佑さん・宇都宮 勝晃さん・塗 亜紗子が担当。何度も対話を重ねながら、この場所で生まれる世界観を象徴するデザインプロトコルを構築してくれています。

これらの皆さんとは西伊豆の我々の現場での1泊2日のキックオフ合宿からスタートし、長い期間を共に走ってきてくださっています。これ以外の方々も含め、本当に多くの人が関わってくださったからこそ、今回の店は“この場所にしかない景色”になっていると思っています。

八重洲という場所を選んだ理由

— 数ある候補地の中で、なぜ東京・八重洲という場所を選んだのでしょうか。

友廣 生産拠点を構えているような全国各地の海の見える場所や、潮風が感じられるような場所でお店をやってみたいという思いもずっとあるのですが、海藻の新たな食文化をつくって世の中に発信していくことを考えると、やはりまずは東京が最適なのでは… と考えていました。

そんなときに、東京建物さんから「こういう物件がありますよ」と紹介していただいて。その場所がすごく魅力的で、そこから一気に話が進んでいったんです。東京・八重洲は常に変化を続けるエリアであり、まずは5年での挑戦となります。でも、それも含めて今ここでやる意味があると思いました。東京駅から徒歩3分以内って、日本中から人が集まりやすいだけでなく世界ともつながれる最高の立地です。すぐ隣には51階建ての「TOFROM YAESU」という新たな複合施設も2026年2月(予定)に完成します。そうした大きな人の流れのある場所で海藻の未来を発信できるのは、これからの我々の歩みにとって大きな意味があるんじゃないかと感じています。

海藻ラーメンから広がる未来

— このお店からどんな未来を描いていますか?

友廣 シーベジタブルの海藻も、それを使った料理も、食べてくれた人たちはよく「海藻の概念が変わった」って言ってくれるんですよ。それくらいこだわって研究して、生産して、品質管理までやって加工して… っていう流れをずっと積み重ねてきたと胸を張って言えます。でも、食べ物って実際に食べてもらわないとはじまらないんですよね。

「海藻ってこんなに美味しいんだ!」っていうポテンシャルを、もっと多くの人に体感してもらいたいです。ラーメンはそのための一つのメディアなんですよね。将来的には、アメリカやヨーロッパなど海外でも海藻ラーメンを味わえる場所ができたらいいなと妄想しています。ただ、ラーメン屋を増やしたいわけじゃなくて、いろんな国で海藻のおいしさに触れられる体験が広がっていくことが目的なんです。

そして、この店づくりのプロセス自体がそうだったように、これからも多くの人が関われる未来をつくりたいです。いろんな形でお店に関わってくれる方が増えていくといいなと思っていますし、そこから新たなお取引がはじまったり、想像もしていなかったような事業が生まれたり… 。その結果として、海藻を取りまくエコシステムが豊かになっていくような、そんなきっかけの場所にしたい。シーベジスタンドは、まずは5年という時間での挑戦です。だからこそ、この場所で生まれる体験を、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです。

記事公開日:2025年12月1日

シーベジスタンド店舗概要

店名:シーベジスタンド
所在地:東京都中央区八重洲
グランドオープン:2026年3月2日(月) ※予定
営業時間:ランチ 11:30〜14:00(L.O.13:30)/ディナー 18:00〜22:30(L.O.22:00) ※予定
プレオープン:2025年2月2日(月)〜27日(金)(「Makuake」優先予約枠での営業)

>>【プレスリリース】初の常設店「シーベジスタンド」を2026年3月に東京・八重洲にオープン

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