【榮太樓總本鋪】団子に合う“究極の醤油”に選ばれた海藻は?
合同会社シーベジタブル 友廣裕一
株式会社榮太樓總本鋪 商品企画開発部 蟻本真依子さん
株式会社 三越伊勢丹 三越日本橋本店 第1営業部 和菓子バイヤー 高田幸子さん
株式会社榮太樓總本鋪 商品企画開発部 野呂沙樹子さん
バイヤーからの宿題で新しいアイディアを創出
蟻本:〈榮太樓總本鋪〉は、初代の細田徳兵衛が、文政元年に飯能から江戸へ出てきて、九段下でおせんべいなど和菓子を売っていました。日本橋の近くに本店がありますが、三代目、曾孫の細田安兵衛がその地で創業しました。当時、魚河岸で、市場で賑わっていた日本橋界隈の仕事をされている方に和菓子を売り始めたのが最初です。働きながら食べるものということで、大福など片手で食べられるワンハンドのような、今で言うスナック菓子のようなものを売り始めて、そこで金鍔(きんつば)や梅ぼ志飴という菓子を売り始めました。
昭和の時代には一般向け、百貨店さん向けに、お店を出させていただきました。そのときに、あんみつ、みつ豆で少し有名になり、平成に入ってからは、スーパーやコンビニエンスストア、〈あめやえいたろう〉という別ブランドなど、古いものを大切にしながらも時代に合った新しい味を作り続けているような会社です。
高田:〈榮太樓總本鋪〉さんとは、商品の新しい挑戦や「お客様に何が響くか」というところを一緒に考えながら商品開発をしていただいています。この前も、屋上でイベントを催したときに、〈榮太樓總本鋪〉さんの看板商品である「梅ぼ志飴」を使って、縁日感を出すために「綿あめを作ってください」とお願いしました。
蟻本:そうやって宿題をいただくので、新しいアイディアが生まれると言いますか、普段何も無いときに、なかなかすんなりいかないこともあります。今回も、和菓子に海藻を使うという点で、新しい発見や美味しさを見つけることができました。
ー 今回、あつばアオサを選んだ理由は?
蟻本:考えられるものを、とにかく組み合わせて食べてみようということで、すじ青のりとあつばアオサを試作しました。提供いただいた海藻のサンプルはどれも本当に美味しかったです。香りが良くて、海藻の味がしっかりしていました。お茶のような抜ける香りがあり、味が良い。お菓子は見て楽しむものでもあるので、いかに見た目を良くするのかと、高田さんからご提案いただいた、みたらしとの組み合わせをいろいろと試しました。
野呂:開発担当者は、これまでどの醤油がお団子に一番合うのか突き詰めてきました。いろいろなお醤油を試し、醤油マイスターの方にもお話を聞いて選んだお醤油です。それを今回も手に入れることができました。あつばアオサと合わせたときに、みたらしもとても美味しかったんですが、やはりみたらしが主役になってしまいます。醤油だと、よい感じにあつばアオサが引き立つように収まってくれました。見た目のインパクトの部分でも、「これは何かな?」と面白がってもらえるので、社内でも「あつばアオサの方が面白いのでは」という意見がありました。
余計なものを入れずに素材の味で「おいしい」を追求
蟻本:最初、団子にすじ青のりをかけたときは、どうやっても見た目がうまくまとまらなかったんです。どうしたら見た目がきれいになるのかを試行錯誤したり、白餡にすじ青のりを混ぜてみたりしました。それがなかなか喧嘩して、うまい味になりませんでした。やはり、甘系よりしょっぱいものに合うのでしょうね。見た目がたこ焼きのようにも見えましたね。
野呂:「ソースをかけてたこ焼きにしてしまう」みたいな話もありました(笑)。
蟻本:青のりなので、ポテトチップスみたいに炭水化物とバターを合わせみたのですが、冷蔵品にしてしまうとお団子が硬くなってしまいますし、バターをつけたままでは焼けないので、今後の夢ということで…。シンプルに、海藻をふりかけたものが美味しいです。社長にも一発OKでした。「社長、どうでしょうか!」という感じで緊張する瞬間でしたね。「美味しい」と言っていただけて良かったです。
ー 〈榮太樓總本鋪〉の代表取締役社長である細田将己さんがOKを出すポイントは、どう言うところなんでしょうか?
蟻本:弊社が大事にしていることは、どこまで余計なものを入れずに味が出せるかというところです。今回で言うと、お団子と、醤油や海藻といった和の素材を食べて「美味しい!」と思ってもらえるのか。今回は、とてもインパクトのある海藻だったので、その点もポイントだったと思います。こういう機会が無いと、自分たちから「こういう素材があるのか」と見つけることはできないので、ありがたいですね。
高田:〈榮太樓總本鋪〉さんは、毎日職人さんが必ず1人、店舗についていただいています。日によって職人さんが代わることもありますが、だいたいベテランの職人さんがついて、お団子を焼いたり作業いただいています。やはり職人さんの手が動いているときは、お客さんが本当に凝視されるんですよ。店頭に厨房があるからこそだと思います。
団子に合うたまり醤油で海藻の味を引き立てる
蟻本:弊社は、海苔屋さんともお付き合いがあるのですが、ここ何年も不作と言いますか、海苔が獲れないと聞いています。市販の海苔を買っても普段より硬かったり、なかなか美味しいものに巡り会えなかったり。
友廣:海苔はどこも深刻なので、作ってほしいと言う話はたくさん届いています。海藻は、皆さんが知っている海苔や昆布といったものは作られてきましたが、それ以外の海藻は、作られてきませんでした。海藻の種を採る技術が確立されていないので、どうやって育てていくのかは未知数です。
蟻本:これから手がける海藻の種類も、どんどん増えていくということですか?
友廣:そうですね。研究はずっと続けていて、今100種類ぐらいあります。シーベジタブルは、海藻のシードバンクのような存在ですね。今、つくっている海藻の種をとっておかないと増やせないので、研究と育成をしながら、量産できる種類も増やしています。
ー 最後に「EAT & MEET SEA VEGETABLE 」に向けて意気込みを一言
蟻本:本当に良いものができたので、たくさんの方に食べていただきたですね。「こういう素材を使って、こんな取り組みをしています」といったところを、きちんと伝えられるようにしたいです。今回は、団子に合うたまり醤油を使っています。ほぼ大豆だけでできている醤油だからこそ、海苔ともすごく合うのだと思います。良い素材を提供していただいたので、もっと皆様に、団子も海藻も知っていただきたいなと思います。
野呂:もともと、うちのお団子は、餡やみたらしのタレが引き立つように開発されています。コシヒカリの無糖の硬くならないお団子で、試行錯誤して作られたものなんですね。しっかりとした土台があるからこそ、今回の美味しいあつばアオサが引き立ち、ぴたりとマッチするような組み合わせになったと思います。ひきつづき、柔軟にいろいろな商品を作っていきたいなと意気込んでいます。