【ノワ・ドゥ・ブール】手間暇かけて、自分たちがいいと思ったことをやり尽くす
株式会社エーデルワイス関東営業部 マネージャー 小西重史郎さん
株式会社三越伊勢丹 三越日本橋本店 第1営業部(食品)洋菓子バイヤー 井上孝さん
合同会社シーベジタブル 共同代表 友廣裕一
株式会社エーデルワイス 執行役員/MD本部長 地引浩司さん
株式会社エーデルワイス 関東営業部 アシスタントマネージャー 小島真利子さん
焼きたてのフィナンシェの美味しさを愚直に届ける
地引: 〈ノワ・ドゥ・ブール 〉は、2011年の3月にオープンしました。エーデルワイスという会社で百貨店様を中心に洋菓子とベーカリーのブランドをたくさん展開しています。〈ノワ・ドゥ・ブール〉は、伊勢丹様から「新しいブランドを一緒に作りませんか?」というお声がけからスタートしました。「日持ちはしなくてもいいから、焼き菓子で本当に美味しいものを作りませんか?」とおっしゃっていただいて。フィナンシェは焼きたてが一番美味しいのだけれど、それを知っている人はほとんどいません。焼きたてのフィナンシェは周りがカリカリしているので、一番美味しい瞬間を味わって驚きを感じていただこう、それをメイン商品にしようと考えて立ち上げました。
ー 試作品をシーベジタブルのシェフに試食してもらう会で、当時ブランドを一緒に立ち上げた日本橋三越本店第1営業部(食品)商品担当の上野奈央さん(立ち上げ当時の伊勢丹新宿店洋菓子バイヤー)とも意見交換する場面がありました。
地引:緊張感のあるやり取りでした。オープン当初から、上野さんに試作品を持っていっては、店舗やパッケージデザイン、商品ラインナップの方向性のやりとりの中で「これはちょっと違いますよね」というフィードバックをもらうことがありました。なので、自分たちが一番自信のある「これだったらいけるんじゃないか」というところまで練り上げてから持っていきました。
フィナンシェは卵白・砂糖・アーモンドプードル・粉・バターが基本材料の焼き菓子です。その比率をいろいろ変えたり、アーモンドプードルの産地や挽き方など色々なものを試しました。砂糖の種類を変えたり、バターの焦がし具合も試しました。手間暇かけて、自分たちが美味しくなるために良いと思ったことをやり尽くしたものが、 〈ノワ・ドゥ・ブール 〉のフィナンシェです。
ー バイヤーの井上さんから海藻を使おうとご連絡があったときに、どんな印象を受けましたか?
地引:当時、昆布や鰹節を使った他の会社様で作られているクッキーを取り寄せてみたんですがイマイチでした。なので、今回、シーベジタブルの海藻のお話をいただいて、まずは取り扱っている海藻の種類を調べてみたら、すじ青のりやはばのりが出てきたんです。私は、はばのりが大好きなので、一度話を聞いてみたいと思ったんです。
すじ青のりはバターとの相性が良い
地引:青のり自体は、銀座三越で〈アンテノール〉というブランドのクッキー缶を作った際に使ったことがありました。通常、お菓子は甘いものが多いですが、そのシリーズは定番の甘み系に加え、お酒のおつまみにも合うような塩味系のクッキー缶を作りました。その時に青のりのメレンゲを作った経験から、「青のりだったら香りもよいし使える」と思いました。フランス産のボルディエのように海藻を練り込んだバターもある。海藻とバターは相性がいいので面白いかもと思って、海藻のサンプルを取り寄せました。
ー 開発されたフィナンシェには、塩気のあるチーズとナッツが入っていました。
地引:すじ青のりの風味を活かしつつ、甘いだけではなく海藻の塩味を引き立てたかったんです。ただ、生地に直接塩を入れるとしょっぱいお菓子になってしまうので、トッピングとして使うものに塩を絡めることにしました。3種のナッツに雪塩とパルメザンチーズを絡めてローストしたナッツを乗せ、更にグリュイエールチーズを振りかけて焼き上げています。すじ青のりの風味にナッツの食感とチーズの塩味が加わることで、味わい深いフィナンシェが出来たと思っています。
ー 開発する上でどんな工夫をされましたか?
地引:生地にすじ青のりを入れると食べたときの後味で海藻の風味が残るのですが、ファーストインパクトの香りが立たなかったので、生地の上に巻いて乗せることにしました。これにより、口に入れたときに、すじ青のりの香りがふわっと立つようにしました。この方法を試すのに、海藻の量や塩加減など、色々なパターンを試しましたね。
井上:最初にサンプルをもらったときに、香りがよくて素材の良さを実感しました。すじ青のりの香りを活かすようなものを望んでいたので、とても嬉しかったです。
地引:私たちは焼いても海藻の色が変わらないことは、驚きと嬉しい発見でした。すじ青のりは、生地に入れても上に乗せても色が変わらなかったので、遠慮せずにたっぷりと使うことができました。青色が黒く変わると魅力が半減するので、見た目としても色が保持できることは重要でした。
フィナンシェに合う海藻を探究
地引:今後は、はばのりは一度使ってみたいと考えています。関西の方では、あまり海苔は食べないんですか?
井上:食べますが、多分若い世代の間では減少しているかもしれません。海苔も採れなくなって値段が上がり、貴重品になりつつあります。
地引:僕は元々千葉県出身で、なんでも海苔をかけて食べる環境の中で育ってきたので、海苔や鰹節は愛着があります。だから今でも毎年お正月のお雑煮に使う海苔ははばのりで、わざわざ海苔屋さんに頼んで取り寄せています。お雑煮にはお餅が見えなくなるくらいはばのりをかけて食べるので、そのお椀の見た目は、知らない人が見たら気持ち悪がられると思いますよ。
友廣:僕らも、今回は残念ながらご提供できなかった海藻がたくさんありました。
地引:それだけ人気ってことなんですよね?
友廣:そうですね。今年は想定よりも多くの注文がありました。現在、昆布を作っているので、来年以降、新しい素材を使っていただける可能性を考えていきたいと思っています。
井上さん:今までは、生産者と三越伊勢丹に店舗を構えるお取組先さまが直接顔合わせする機会がありませんでした。今回は、バイヤーだけでなくお取組先さま向けに、シーベジタブルさんが海藻の使い方のレクチャーをオンラインで実施してくれたことで、海藻に対する熱意が伝わってきました。今までの企画とはちょっと違うなと感じました。
地引:今までは素材を指定されるだけで、その素材が選ばれた理由や希望を直接聞くことはできませんでした。今回のように、直接詳しく説明を受けることができたことは、これまでとの大きな違いです。本当に熱い想いが伝わってきて、海藻の資源量が減るなどの状況も知ることができました。食文化への取り組み方にも、とても共感しました。こうした経験ができて、本当に良かったです。
井上さん:〈ノワ・ドゥ・ブール〉は、多くの方に海藻を知ってもらう最適なブランドだと思います。一般的に売れる一品あたりの個数は上限があり、大体200~250個です。しかし、フィナンシェなら多くの方に知っていただけるチャンスがあります。今回の取り組みも多くの方に認知されるのでは、と期待しています。
ー 最後に「EAT & MEET SEA VEGETABLE 」に向けて意気込みを一言
地引:すごくいい商品ができたと思います。今までは、どうしても甘いスイーツ系がメインでしたが、しょっぱい系を作るのは今回で2回目です。バイヤーとシーベジタブルの皆さんにも美味しいと言っていただけてホッとしています。
井上さん:他のブランドから「どうして〈ノワ・ドゥ・ブール〉はそんなに売れているのか?」とよく聞かれます。他の店も、〈ノワ・ドゥ・ブール〉と同様に焼き立てを提供していることもありますが、それだけではありません。
自分でフィナンシェを買うときは、焼きたてを好んで買うものです。美味しくて、他の人にも食べてもらいたいときは、日持ちするように包装されたものを選びます。それを食べた方は、「次は焼きたてが食べたい」と買いに来る。〈ノワ・ドゥ・ブール〉は、この循環が生まれていることで、新宿や日本橋や銀座で人気が続いているのだと思います。しかし、単品だけで日持ちしないものだけを扱うには限界があります。だからギフトも、とても重要です。
友廣:今回のフェアで、すじ青のりのフィナンシェが好評だったら、ギフト用の商品でぜひメニューに加えて欲しいですね。