【BIOSSA】パン屋さんのCTOが開発した海藻が主役のパン
合同会社シーベジタブル 友廣裕一
株式会社BIOSSA 管理部 主任 北山真理子さん
株式会社BIOSSA CTO 井上正之さん
株式会社三越伊勢丹 第1MDグループ 新宿食品・レストラン商品部 パン・プラドエピスリー バイヤー 久保満夢さん
ご飯を食べるような感覚で、朝の食卓に米粉パンを
―〈BIOSSA〉の立ち上げには、井上さんが深く関わっていると聞きました。
井上:僕は〈BIOSSA〉のCTOとして、米粉パンの開発をしています。もともとベーカリー事業をやっていて、独立して25年目です。6年くらい前から、事業とは別で米粉のパンをプライベートで作っていましたが、当時カーギルという海外の穀物商社に勤めていた宮城(現〈BIOSSA〉代表)と知りあいました。宮城がヌカを使ったお菓子や、グルテンフリーを日本に広めたいと言っていたんです。僕の米粉パンも食べてもらったら衝撃を受けたようで、事業化することになりました。
―北山:私は関西在住の5年前から〈BIOSSA〉の井上さんの作る米粉パンのファンで昨年念願叶って入社しました。もともと川口工場で製造と管理をしていましたが、2024年4月に伊勢丹新宿店でシーベジタブルさんが出店されているのを拝見しました。実は、海藻が好きなんです。同じ頃、川口から春日工場に異動して製造や販売に携わっています。
―今回は4種類ものパンや焼き菓子を開発いただきました。
北山:すじ青のりの海苔塩ラスク、あつばアオサと若ひじきの海フォカッチャ、あつばアオサとしらすのお米パン、あつばアオサととさかのりのシーフードブレッドの4種類です。特に、あつばアオサと若ひじきの海フォカッチャは米粉100%のパンなので、海藻の香りがかなり立ちます。パン単独で食べる人は、あんまりいないと思うので、どんなシーンの料理に合わせようかなと考えながら、海藻を少し抑えめに入れた方がいいだろうなとか、あまり色を濃くしない方がいいだろう、というようなことを考えながら調整しました。
井上:本当はあつばアオサのバスクチーズケーキを作ろうと思ったんですが、制作時間が足りなくて、残念ながら今回は作れませんでした。海藻は、サステナブルな未来の食材50選に選ばれたんですよね。アオサは家でもよく食べるんですが、米にも合うので、米粉パンとも相性がいいんじゃないかと思いました。
久保:井上さんがいろいろなレシピ開発を積極的にされているのを聞いていたので、〈BIOSSA〉さんに声をかけました。米粉パンのおいしさを追求されていることに加えて、これまでにない「海藻」という食材で、良い相乗効果が生まれるのではないかと思って出店の依頼をさせていただきました。
―シーベジタブルの海藻を使った印象はいかがでしたか?
井上:僕が日頃食べている海藻は国産ですがドライ感が強い。シーベジタブルの海藻は割と優しい。フルーツで言うと、セミドライの感じと言うか、ジューシーさが残っているという印象がありました。ただ、パンや調理に使うとなると、香りの要素が弱いのかなという印象だったので、一部はあつばアオサ自体を、もう一回ドライ乾燥しました。そうすることで味がしまってくれる。それを生地に添加すると、水分が回って香りが広がる感じがするんです。米粉だからこそ、たぶん味や香りが出る。
友廣:ふつう、パン屋さんにCTOはいないですよね?初めて聞きました。井上さんは、日頃からアオサを使って開発されていますが、一般的なアオサと、シーベジタブルのあつばアオサ、違いは感じましたか?
井上:全然違いますね。使いやすさという点でいうとピザ、調理パンに関してはすごく使いやすい。マッチングするというか、味がのるんです。今まで使っていたアオサとは全く違うなと。すごくよかった。生地に混ぜて使う場合は、もっと入れたい気持ちはあるんですけど、添加量を抑えながら出汁の効果で何とか香りが出ないかな、というところのハードルはありました。
友廣:ラスクはどういう経緯で開発されたんですか?
井上:スナックも作りたいと思って。うちのパン屋でスナックと言えば、ラスクだよねと。グルテンフリーの食パンでカットしてラスクにするとがりがりの食感になっちゃうんですよ。でも、うちのパンはなるべく保水率を多くしてふっくらするパンを作っているからこそ、ラスクらしいラスクができる。
友廣:確か、バスマティライスも入っていますよね?
井上:そうです。7年前に、日本では初めて国産認定された長粒種米というのがあります。この米は、血糖値の急激な上昇を抑える効果があるとされており、それをより多く使うことで糖質を気にされる方も体内で吸収しにくいんです。より健康と美容が共存できたらいいなと。今でもそうですが、グルテンフリーの米粉パンは、まだまだハードルが高い。それを払拭できるようなパンを開発したいと思ってやっています。
―今後、使ってみたい海藻はありますか?
井上:僕は、20代前半の頃にフレンチをやっていたので、とさかのりは、緑と赤の2種類ぐらいだったかな、使ったことがありました。こんにゃくを薄くスライスして歯ごたえのあるものを組み合わせてサラダにしました。今回シーベジタブルさんから、事前に海藻のレクチャーをしてもらって、「こんなに種類がいろいろあるんだ、全部使いたいな!」というところからスタートしました。こういう海藻があるということを教えてもらえると、それを食べてみて、まずはイメージだけで作ってみる。実際に食べてみて、何か他にあわせたいなとか、感じられることがあれば、商品化しています。
友廣:そう言っていただけて嬉しいです。今回、開発に使っていただいた海藻以外でも使ってもらいたい海藻があります。海藻は日本だけで約1500種類もある。全部食用になるといわれていて毒がないんです。だから今、シーベジタブルでは100種類ぐらい海藻の種を採っています。ローカルで食べられていたけど採れなくなっているものがいっぱいある。それをどんどん復活させようとしています。今回は、ご提供できる海藻の種類が限られてしまいましたが、次回ご一緒できる機会があれば、いろいろな種類を準備したいと思います。
ー 最後に「EAT & MEET SEA VEGETABLE 」に向けて意気込みを一言。
北山:海藻をテーマにフェアを行うと聞いたとき、私自身、初めはアイデアが思い浮かばなかったんです。なので、今回開発された商品を食べたときに感動して。伊勢丹新宿店のイベントをきっかけにこの商品をたくさんの人に知っていただいて、海藻の魅力が広がったらいいなと思っています。
井上:僕は開発が楽しくて作ることしかできないので。1500種類もあるという海藻の一部でも、こうして提案いただければ、また面白い海藻のパンや、海藻の麺とか、海藻とお米につながる商品ができればいいなと思っています。僕が関わる催事に関しては、より、もっといいものを現場に落とし込んで、現場の職人をくどいて種類が出せるようにします(笑)。
久保:今回のイベントを実現するにあたり、シーベジタブルさんの計らいで、西伊豆の生産拠点を見させてもらいました。そこで海藻の可能性を感じましたが、こうしていろんな人の想いが乗った企画になり、私自身すごく楽しみにしています。これが第一弾となり、次の企画に繋がったらいいなと思っています。