【両国茶屋】つくねが一瞬で華やぐ、「追いすじ青のり」のインパクト
合同会社シーベジタブル 共同代表 友廣裕一
株式会社アサヒブロイラー 売店部 売店運営課 エリアマネージャー 小松崎 邦仁さん
商品部 商品開発課 係長 小原律子さん
株式会社三越伊勢丹 三越日本橋本店 第1営業部 和総菜バイヤー 藤澤龍生さん
寿司職人だった店長が握る「磯つくね」
小原:アサヒブロイラーは、1957年に鶏肉事業を始めた鶏肉の加工販売や焼き鳥などの専門店です。日本橋三越本店さんでは〈両国茶屋〉という屋号で鶏総菜の直営店を展開しています。2020年4月には全農チキンフーズ株式会社と業務提携。現在は全農グループの一員として国産の鶏肉にこだわった商品作りをしています。〈両国茶屋〉は開店して50年以上の歴史があり、長年お客様に親しまれているお店です。焼き鳥は店内の厨房で一本一本焼き上げ、素材にこだわった季節ごとの惣菜を提供していることが特徴です。
― 今回は海藻がテーマですが、最初はどんな印象でしたか?
小原:海藻ってあまり使い慣れない食材ですよね。私たちの店舗は常温ケースなので、揚げる、焼くなど、加熱したものでなければ使えなくて。乾燥した粉末のすじ青のりを使えばできるかもという話になりました。
小松崎:私も海藻といえば、海苔ぐらいしかイメージがないので難しいなと。社内ルールでは、店舗でご提供する食品が長時間にわたって食べられるかどうか、厳しく検査しています。乾燥した海藻ならば安心だと思いました。
―「磯つくね串」を商品化する上で、難しさはありましたか?
小原:青のりといえば、磯辺揚げが一般的ですよね。当初は鶏の磯辺揚げと磯つくねのほか、すじ青のりを入れた肉団子も候補にありました。ただ、やっぱり弊社の鶏肉メニューの看板商品はつくねです。今回はつくねにすじ青のりを入れてアレンジすることにしました。
うちのつくねはタレ焼きで、店頭では塩よりもタレのほうがよく売れます。でも、磯つくね串は、タレを使うとすじ青のりの風味が消えてしまう。塩のほうが見た目も味わいもよくなると思いました。難しかったのは、すじ青のりの分量や、味の決め手となる塩加減。何度も試作をしました。
小松崎:うちの店長は寿司職人だったので、つくねを握るのがうまい。つくねを握る作業は手間がかかるし、けっこう難しいんですよ。磯つくね串は14本限定(1日あたり)でしたが、店長の意気込みにエンジンがかかってきて、28本は握りますと。土日はもっと提供できればと店長もはりきっています。
*試作品のすじ青のりを入れた肉団子。シーベジタブルのパートナーシェフの岡田大介さんと試作品を食べながら意見交換。
― 鶏肉と海藻を掛け合わせて、どんな発見がありましたか?
小原:すじ青のりのふくよかな香りにみんな驚いていました。「こんなに香りがするんだ」と。鶏肉は淡泊なので、すじ青のりとよく合うという意見もありました。うちの焼き鳥には海塩を使います。すじ青のりは海塩との相性もいいですね。
友廣:そう言っていただけると嬉しいです。香りと口どけが自慢の商品なので。最後に「追いすじ青のり」を乗せると見た目にもさらにインパクトがありますね。
小松崎:試食会の時、シーベジタブルさんから「追いすじ青のり」を提案して頂いたので、私たちも要望に応えたいと思いました。すじ青のりを追いがけしたら、香りがすごい。見た目も良くなりました。デメリットは歯に青のりがくっつくことかな(笑)。
小原:これまでうちの店頭のショーケースには、緑色の商品がなかったんです。お惣菜はその場で食べられないから時間が経ってもおいしく食べられる工夫が必要で、見た目も大事です。いかにおいしそうに見せることができるか?磯つくね串にすじ青のりを追いがけすることで、青のりらしさがよりアピールできると思います。
海藻でコラボレーションの渦に巻き込む
小原:シーベジタブルさんは、どんなきっかけで三越伊勢丹さんと一緒に取り組むことに?
友廣:伊勢丹さんの「サロン・デュ・ショコラ」です。2023年1月に初出店した時、海藻を使ったスイーツを弊社のシェフが作り、イートインでご提供したことがきっかけでした。「サロン・デュ・ショコラ」に初めて出したスイーツは、すじ青のりのチョコレートケーキです。チョコレートとすじ青のり、キウイフルーツ、松の新芽。僕たちですらその味わいをうまく表現できない斬新なスイーツでした。
小原:海藻のショコラ。すごくとがっていますね。
友廣:海藻のスイーツは、パティシエや出店者のみなさんが特に関心を示して食べに来てくださいました。「サロン・デュ・ショコラ」で、同じフロアの出店者の方々がひとつのブースにこんなに来たことはなかったそうです。それで海藻が話題となり、三越伊勢丹さんの催事でご縁をいただくようになりました。
シーベジタブルのすじ青のりは陸上栽培のほか、海面でも栽培しています。海ではいま、漁獲量の減少が課題になっていますよね。その背景にあるのは、海のなかで「磯焼け」が進み、魚たちが暮らせる藻場(もば)がなくなってきていること。海藻は海のなかで森のような役割をしています。海藻を海面で栽培することは、海の生態系の復活にもつながります。みんなで海藻を食べれば食べるほど、海の生態系が豊かになっていく。そういう世界観にバイヤーのみなさんも共感してくださっています。
小松崎:なるほど。壮大ですね。
海藻を新たなつくねの定番に
ー 最後に「EAT & MEET SEA VEGETABLE 」に向けて意気込みを一言
小原:「磯つくね串」がつくねの定番になるといいなと思います。世の中に紫蘇のつくねはあるけど、海藻が入ったつくねはほとんどないので。焼き鳥はみんな大好きですよね。外食もありますが、家庭で作るには面倒ですから、焼き鳥は惣菜が強い商材です。そこに海藻をうまく組み合わせることで、より多くのお客様に食べていただけるきっかけになればと思います。私たちの商品開発も、みなさんの期待に応えたいからこそ、殻を突き破れる。新たなことに挑戦する機会をいただいてありがたいと思っています。
小松崎:前回のオンリーエムアイでは、農家さんが育てたレモンを使ったレモンチキンが定番化されました。今回も可能性はあるかもしれない。お客様からどんな反応があるか楽しみです。
藤澤:〈両国茶屋〉さんは鶏肉と野菜の組み合わせが定番。鶏肉と海藻を使った商品は、初めての試みです。新たなお客様に来ていただくためには、新たなことにチャレンジし続けることが必要。磯つくね串がお客様に好評で、海藻を使った商品が増えていけば、次につながるオンリーエムアイになるかもしれません。オンリーエムアイは年に2回、2週間のみですが、その時だけではなく、さらに今後につながるいいチャンスになればと思います。